第二部 文化祭
Kirito's episode 記憶
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対に守ろう。
そうだ。守らなければ。
母親は半ば吸い寄せられるように、和人を庇うように抱きしめた。
その背中を、深紅に染まったナイフが深々と切り裂いた。
母親の眼から、一筋の雫がつたった。
その躰が輝き始め──
四散した。
和人は絶叫した。
──今まで、戦闘はおろか、剣を握ったことすらなかった。
「ははははっ! 死んじまったな、お前の親!」
殺人者が言う。
「まぁ安心しろよ。今すぐお前も会えるからさ」
その刹那。
「……黙れ」
和人は呟くと、殺人者に猛然と体当たりした。その勢いで転げ落ちたナイフ──両親の血に濡れた、忌々しい凶器を掴んだ。
「……これ、親父の分」
おもむろに口を開き、ナイフを振りかぶる。戦闘なんて初めてのはずなのに、恐るべき速度だった。殺人者の腕にしっかりと命中した。
「……これは母さんの分」
今度は振るったナイフを切り返す。
「そんでこれは……」
和人は血走った眼で相手を見据えた。
「俺たちの生活を壊した罪」
その言葉は、微妙にあどけなさの残る声から発せられるものだとは到底思い難かった。
和人は生まれて初めて人を憎み、恨んだのだ。
しかし、和人が殺人者にとどめを刺す前に、整合騎士が飛び込んできた。
その後和人は母親の妹──桐ヶ谷翠の家に引き取られた。
数ヵ月後。
「ねぇ、かずとー」
言ったのは、桐ヶ谷家の一人娘──従妹の桐ヶ谷直葉だ。和人は苦笑いを浮かべた。
「……どうした、スグ」
「遊ぼ、かずと!」
直葉がにっこり笑う。
「はいはい……」
和人は直葉の兄のようだった。とても穏やかにも見えた。
しかし翠は、和人の瞳の奥に広がる深い闇を見過ごすことができなかった。翠が事件の詳細を知ったのは、和人やあの家の記憶を神聖術によって覗き込んだからだ。
両親を殺されたことへの恨み、哀しみ、怒り、憎しみ。
──このままだと、和人は壊れてしまうのではないか。
翠は不安に感じていた。
和人はあの事件についての記憶をすべて喪ってしまったらしい。家族と幸せに暮らしていた日々や、自身の両親が誰なのかということさえ覚えていなかった。よほどショックだったのだろう──そう考えると、翠の胸は張り裂けそうに痛んだ。
和人を自分の子、直葉の兄として育てた。
年月が流れ、やがて和人は子供らしい明るい表情をするようになり、直葉と楽しそうに戯れるところをよく見かけるようになった。
「カズー! 直葉ー! 遊びましょー」
アリス・ツーベルクが、玄関先から叫んでいる。
どうやら、幼なじみであ
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