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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の1:圧倒
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何の苦労なくそれをかわす事が出来ていた。
 本来なら距離を詰めて近距離戦に持ち込んだ方が、チェスターの勝算は確定的なものとなるだろう。だが慧卓から発せられる魔力の多さが、彼に自重という悔しい手段を取らせていた。あれに近付いた途端に何をされるか分かったものではない。仮に爆発か何かをされたら、障壁でそれらを防ぐ自信は彼には無かったのだ。よって、宮殿内の戦場は拮抗し、明らかな理性を保っているチェスターのみが苛立ちを募らせているという展開になっているのである。

「ここまで互角だと全く面白みが無いなァッ!ええっ、騎士殿ぉっ!!」
 
 もう何度目かの雷撃を打ち出し、ついでとばかりに天井の一部に火球を炸裂させる。無論そんなのが通用しないのは既知の範囲であり、専らむかむかを晴らすためだけにやっているようなものであった。あっさりと瓦礫を防いだ慧卓は、お返しとばかりに障壁を爆発させて、瓦礫を周囲に向かって一気に拡散させた。こういう所が恐ろしい。無駄に力だけが向上している分、やる事なす事が全て規格外のものである。降り注いだ瓦礫を吹き飛ばす一方で背後に特大の火球を展開していくなど、チェスターの常識からは著しく逸脱した魔術であった。
 飛来してくる瓦礫の破片を雷で消し炭にして、後からくる火球には同じく火球をぶつけて相殺する。爆発の勢いはかなりのものがあり、中空で弾けたのに関わらず衝撃で床が割れて、空気がぶわっと煽られてしまう。チェスターは魔力の暴風ともいうべき世界の中で、一つの確信ともいうべき考えを抱いていた。妖しき義眼が、慧卓の手中にある錫杖と胸部に埋まっている首飾りに向かって、同調するかのように光っていた。

(これ程の威力が篭った魔術をよくもこう易々と扱える。本当に狂王の秘宝だけによるものか?普通は魔力に振り回されて狙いなど定まらぬ筈なのだが、どうも奴の魔術はある程度制御されているように見受けられる。くそ、隠し玉を持っていたのは奴も同じという訳か)

 普通、才能があるだけでは魔力は容易く扱えない。日常生活に役立つ程度でなら勝手がきくものだが、そこから先の分野は明確な意思、特に安定性・持続性を維持するための思いが無ければ魔法は効力を発してくれず、光の乱反射のように魔力が拡散してしまう。これがいわゆる『指向性の原則』であり、魔法の応用、すなわち魔術においては絶対的な理論であった。それこそ法原理における、『信義誠実の原則』と同じくらいに。これをものにするかどうかでその者の未来というのが違ってくる。ある者は魔術の研究所に、そしてある者は地方の学士といった風にだ。
 閑話休題。チェスターが疑問に思う重大な点。それは慧卓の魔術には一種の指向性があるという事だ。明確で、正常な意思が存在しているのが前提とされる原則に対して、今の彼には理性というものが全く感じられない
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