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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の1:圧倒
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力によって、龍は再び空を泳ぐ自由を手に入れたのだ。

「図星を指せば激発するか。人間と同じだな」

 口減らずの傀儡を一瞥すると、龍は重たそうに身体を上昇させていく。みすみす逃がすかとばかりに氷の柱が追ってくるが、身体を覆う魔力の流れによって弾かれてしまい、砕け散りながら落下していく。龍は遺跡の全景を見渡せるくらいに上昇すると、空の広漠さを謳歌するようにぐるりと旋回して、あの屈強な傀儡に向かって落着せんとする。風を切りながら飛んでいく龍の瞳には一縷の迷いも無く、この攻撃が成功するだろうという確信に満ちていた。
 傀儡はどういう訳か、宮殿の正門付近で仁王立ちして、龍の突撃を待っているようであった。ふざけた愚行だと龍は一笑し、鷹のような鋭い勢いを保ちながらそこへと向かっていく。横合いから襲ってくる氷の柱も、『転移』で身体にしがみ付いてこようとする他の傀儡も全く気にならない。身体の奥底から漲る魔力が、彼らの魔術を無効化しているのだから。魔力の壁にぶち当たって消えるそれらに惑わされる事は無かった。龍は大きく翼を広げて着陸に備え、獰猛な爪を開いた。邂逅の時と同じく、爪をコーティングするかのように魔力が宿り始める。巨体が風の抵抗を受けて、一瞬龍は静止しかけるとそのまま自由落下に身を委ね、不動の傀儡を押し潰さんとした。
 家屋の脇に潜んでいたマティウスは、あまりに単純思考な龍の様を見て呆れたように微笑んだ。

「掛かったな」

 老人は紐を引くようにくいと手をやった。それに呼応するかのように地べたと明るい光が走り、巨大な魔力の網が龍の眼前に現出した。それは一匹の龍を捕まえるには十分すぎる程に大きなもので、龍は驚愕のまま自ら止まる事も適わずにそれにかかり、絡まって失速しながら地面に落下していった。火砲にも勝る『どぉん』という重低音が遺跡に木霊して、巨体が石造りの大通りを穿つように滑った。狙っていた獲物のほとんど目と鼻の先で止まってしまい、龍はいたく恨めしげに傀儡を睨み付けたが、帰って来るのは氷塊のような冷たい視線であった。
 龍の身体は痛々しく地べたに擦られて傷つき、頭上からはらひらと白雪が振りかかっていく。それまでに散々弄られて深手を負っていたのに加えて、まるで鱗など存在しないかのように網が肉に食い込んでおり、纏われていた魔力が雲散霧消している。狩猟者の立場が一転、漁師に捕まった小魚となってしまった。龍は暴れんとするが、魔力の網は重石があるかのように垂れかかって巨体を地面に張り付けている。牙によって噛み千切らんとしているが、逆に歯茎を傷つけてしまう有様であった。抵抗の余地は無く、そしてマティウスの態度を見るに投降の余地も無かった。
 
「これで終いだ」

 さっと、皺くちゃの手が振り下ろされる。それは死刑の執行と同じ意味を有していた。途端に全
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