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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の1:圧倒
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なるには身体を鍛えるか、魂に至るまでその義眼に全てを捧げねばならんだろう」
「ぐぅ・・・貴様、よくもぬけぬけと・・・」
「それでどうするのだ?退くのか?退かんのか?私の魔術に巻き込んでしまっても謝罪はせんぞ。むしろ好都合だ。労せずして『狂王の義眼』が手に入るのだからな」
「・・・おのれ・・・一先ずは退いてやるぞッ!だが忘れるな!!その首飾りも、錫杖も!いずれは私が貰い受ける!!首を洗って待っておくのだな!!」

 ぎりりと歯軋りを立てながら、チェスターは不承不承といった感じに地面に魔法陣を展開する。蜘蛛の巣のように広がったそれは鈍い光を放つと、チェスターを呑み込みながら忽然として消えてしまった。義眼から放たれるプレッシャーも、魔力も、一切が感じられなくなった。

(『転移』の魔術か・・・こんな状態でなければ行方を調べて義眼を手に入れる事こともできようが、そうもいかん。怒れる若人を鎮めなくてはならんからな)

 マティウスは己を睨み付けている慧卓へと向き直った。その空虚な瞳の中で何を想っていたのか、彼は戦いの舞台がいつの間にか整った事を悟ると、錫杖をくるりと回してその先端をマティウスへと向けた。魔力が欠片も感じられぬ行為であったが、不思議と彼の戦意、否、秘宝から溢れ出る濃密な気配というのを感じ取れた。たかが一本の錫杖と首飾りであるのに、死してなお支配の実行を渇望する事を止めぬ、狂王の意思というのが感じられた。
 マティウスが秘宝から流れている魔力を視線で辿っていくと、それは慧卓の心臓と、脳に繋がっているのに気付く。分かりやすい発見であった。あれはいわば洗脳器のような役割となっているのだろう。耐性の無い者が持つとそれに込められた狂王の魔術が発動し、対象を『魅了』するに違いない。そして何らかの目的を遂行するために、一種の魔力増幅器となっているのだろうと推測できた。
 哀れにもその餌食となって理性を失くした彼のために、マティウスは一肌脱ぐ心算であった。久方ぶりに、彼は魔術師としての本気の片鱗を現していた。何もしないままであるのに、溢れ出る魔力によって髪が靡き、ロープがばたばたという音を言わせる。魔力が走った余波によるものか、床のタイルに罅が入っていき、大広間はさらに悲惨な姿となってしまった。だがこれから招かれる戦いによって、すぐにそれも目立たない傷となるだろう。傷跡一つがどうでもいいくらいの、魔術による破壊によって。
 両者は無言のままに睨み合う。何らかの機があればその手はすぐに動き、最大限の火力でもって魔術が放たれるだろう。而してそれが訪れるまでは、今しばらくの猶予が必要であった。

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