暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十三 〜棄民〜
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
は、はい。鈴々ちゃんを相手にするには、実力不足かと。程なく、勝負がつくでしょう」
 確かに、まともに討ち合うなら、そうであろう。
 ……だが、あの女子(おなご)……何かを窺っているようだ。
 鈴々に押されるように、じりじりと下がっていく。
「逃げてばかりじゃ、勝てないのだ」
「う、うるさいっ!」
「なら、止めなのだ!」
 鈴々は蛇矛を構え直すと、女子(おなご)に向けて踏み込んだ。
 その時。
「にゃあっ?」
 足元がいきなり崩れ、鈴々の姿が消える。
 ……落とし穴を仕込んでいたか。
「鈴々ちゃん!」
「おおー!」
 愛里と風が、同時に叫んだ。
「油断大敵だぞ、おチビちゃん」
 女子(おなご)は、蛇矛を踏みつけて抑えながら、剣を鈴々に突き付けた。
「は、放せなのだ!」
「嫌だね。さ、このおチビちゃんを助けたければ、言う事を聞きな」
 女子は、私に向けて言い放つ。
「……いいだろう。暫し待て」
 私はそう答え、腰から皮袋を外した。
 さりげなく、愛里に視線を送りながら。
「金は、全てここにある」
「よし。こっちに投げて寄越せ」
「良かろう。……受け取れ」
 女子(おなご)の足許に、袋を投げた。
 ドサリ、と音がして……女子の、遥か手前に落ちた。
「届かないじゃないか。おい、そっちのおチビちゃんに持って来させるんだ」
「愛里」
「は、はい!」
 愛里は、皮袋のところまで駆けていく。
「お、おわわわわわっ!」
 そして、盛大に転んでしまう。
「おいおい、大丈夫か?」
「あいたたた……」
 一瞬、女子の視線が逸れた。
 その隙に、私は足下の石塊を拾い、女子に向かって投げつけた。
「!」
 咄嗟に、女子(おなご)は剣でそれを払う。
「何しやがる!……あ」
 剣が、半ばからポキリと折れた。
「愛里!」
「はいっ!」
 転んでいた愛里、素早く起き上がると、懐から小刀を取りだし、女子に投げつけた。
「うおっ!」
 見事に躱したが、当然、身体は動いてしまう。
「へへーん。形勢逆転なのだ」
 鈴々がその隙に、穴から這い出て、蛇矛を手にした。
「さて、まだ戦うか?」
「ひ、卑怯だぞ!」
「落とし穴を使うお前に言われたくないのだ」
「ぐ……」
 折れた剣では、もはや、鈴々の攻撃は防げまい。
「それに、戦えるのはお前一人であろう? 無駄な抵抗は止せ。大人しくすれば、危害は加えぬ」
「……わかったよ。あたしの負けだ」
 女子(おなご)は、剣から手を離した。

 兵が縛り上げようとしたが、私はそれを止めさせた。
「何故、このような真似をした?」
「……仕方なかったんだ。見ての通り、畑は荒れ放題、それなのに官吏共は何もしてくれない。じゃあ、どうやって
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ