戦いの前に
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スティを手にして、扉を開けば、いつもの部屋があった。
たった一カ月ほどの時間であったが、まるでそこは懐かしい家のようだった。
ここで多くの事を語った。
多くの事を教えた。
多くの事を学んで、何より多くの笑いがあった。
懐かしい思いとともに、明日で終わるのかと思えば寂しさがコーネリアに到来した。
明日――戦術シュミレート大会が開催される。
一週間ばかりの時間は、あっという間に終わるだろう。
そして、それが終われば……。
誰もが静かに座り、熱いコーヒーをワイドボーンは一口飲んだ。
「さて、Eグループの戦いは明日になるが。皆は各グループの優勝は知っているか?」
言葉に、誰もが頷いた。
戦術シミュレーターの予選大会はグループごとに開始されており、残すグループはEグループだけとなっていた。
Aグループは予想通りヤン・ウェンリーが勝利した。
Bグループは各学年の次席が三人も揃ったグループであり、Cグループはラップとアッテンボローのグループだ。
Dグループも優勝がでそろった。聞いたことがない名前であったが。
残念ながらフェーガンはBグループの二回戦で敗退している。
「データでしか見ていないが、みんな良い用兵をする。なかなか手ごわいな」
しみじみと呟いたワイドボーンの言葉に、周囲が驚いたように顔をあげた。
それまで学年主席以外は歯牙にもかけなかったのを知っているからだ。
その表情に、ワイドボーンは何だと不満げではあったが。
「さて、諸君はこの大会の前予想は知ってるか?」
「それなりには」
「うむ。端的に言えば、二学年を除いて、私達のチームは、トップグループの中でも下の方だ」
少しの怒りもなく、ワイドボーンは告げた。
確かにコーネリアの学年でも、学年主席とは言えワイドボーンは勝てないだろうという意見で占められている。
それは本人の人望によるところなのか。
「二学年だけは、貴様がなぜか勝てるという予想なのだが。どう思う、アレス候補生」
「フォークに勝ったからじゃないですか」
「それだけではないと思うが、まあいい。そんな予想なのだが……」
ワイドボーンが机の上に、紙をおいた。
それは手書きで書かれた汚い文字――文字にあるのは、戦術シュミカルチョという文字とともに、100ディナールの文字だった。
「私は自分のチームに賭けた。勝ったら7倍の700ディナールだ」
思わぬ大金に、周囲が大きな目を開いた。
「そして、私はこの700ディナールで、街で祝勝会を開く私達の姿が見える。随分と豪華になる」
周囲の視線が集中する中で、笑っていたワイドボーンが表情を消した。
真剣に、周囲をゆっくりと見ながら呟く。
「冗談はさておき。私はこの
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