第11話 「戦いは数だよ。兄貴。by家業再建中のルードヴィヒさん(自営業 二十歳)」
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太子殿下も相当だと思います。
アレは絶対、分かってて無視してるんですよ、きっと。うんうん、わたし以外の女性に目もくれない。素晴らしい事だと思います。皇太子殿下。
「アンネローゼ。にやついてないで、手伝ってよ」
「はーい。マルガレータさん」
わたしは戻ってきた、マルガレータさんのそばに向かいました。
「閣下」
急いでやってきたらしい、オーベルシュタイン大佐が、書類の山を見て、引いています。
この方の引き攣った表情というのを、初めて見ました。
「殿下」
シルヴァーベルヒさんも引き攣っています。
「書類を溜め込みすぎです」
おお〜お二人の声が揃いましたー。
「好きで溜め込んでねー。俺は毎日、二、三百枚は決裁してるぞ。それなのに、減らねーんだよ。お前ら、書類出しすぎだー」
殿下が、そう言ったあと、ご自身の印璽に目を落としました。かなり磨り減っています。手書きではこなし切れず。印璽を押していますが、それですら、もう三つ目です。
各省庁レベルで判断できるものは、ともかく。改革に関するものは、上の判断を仰ぐ事になるんです。そしてその上というのが、結局、皇太子殿下しかいない。
「親父ー。てめえも仕事しろー」
TV画面に向かって、皇太子殿下が怒鳴り声を上げました。目下の者が在宅のままTV通信を送る、という習慣は帝国にはないのです。ましてや、いかに皇太子殿下といえど、相手は皇帝陛下です。
不敬と取られても、致し方ありません。
しかし陛下も殿下も気にした風がないです。
「そちに任せる。良きに計らえ」
しらっとした口調で、陛下がお答えになりました。
さすが親子です。
こういうところは似ておられますね。
そしていそいそと、TV通信をお切りになりました。
「親父め。あの薔薇園。そのうち、丸焼きにしてやる」
ジャムにしてやるとか、オイルを取って売りに出そうとか、さんざん毒づいたあと、殿下は再び、オーベルシュタイン大佐やシルヴァーベルヒさんに手伝わせつつ、書類の山を築き、決裁を再開しはじめました。
しかしながら、書類整理を始めたオーベルシュタイン大佐とシルヴァーベルヒさんのお二人が、内容を見ながら、ああだ、こうだと議論を始める始末。
「あっ」
皇太子殿下の頬が引き攣っています。
「お前ら、手伝いに来たのか、邪魔しに来たのか、どっちだー」
皇太子殿下の怒鳴り声が、部屋に響きます。
今日も、宰相府はいつも通りでした。
ここ最近、こんな毎日です、まる。
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