第二部 文化祭
第28話 直葉の想い
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「……直葉、曲を2つ作らせて頂いたのですが……どちらの曲を選ばれますか?」
授業後、まりあが直葉の教室まで来て訊いてきた。曲というのは、文化祭で歌うもののことだ。
直葉は渡された二枚の譜面を見る。
ひとつは?Sky The Graffti?。アルヴヘイムでシルフの少女?リーファ?として大空を飛び回る楽しさを描いた明るい歌。
そしてもうひとつは──?Face to You?。桐ヶ谷和人の妹・桐ヶ谷直葉としての、和人への想いと葛藤を描いた切ない歌。
「……お兄ちゃん」
直葉はぎゅっと譜面を握りしめた。
まりあが遠慮がちに言う。
「……両方歌いたい、と思うならそれでも構いません。でも……この2曲は本当に対照的なので、想い入れの強い方を選ばれた方がいいかなって……」
直葉は小さく頷き、一枚の譜面を差し出した。
「……あたし、こっちを歌います」
直葉の言葉に、まりあは微笑んだ。
*
「……お兄ちゃん」
声と共に、後ろからブレザーの袖の裾を引っ張られる。振り向くと、立っていたのは──。
「……スグ」
「……お兄ちゃん、ちょっと来て」
「えっ?」
直葉は袖を掴んだまま、ずんずんと歩き出した。
**
直葉は音楽室に着くと、和人から手を離した。
「──お兄ちゃん。まりあさんが、あたしに2つ曲を作ってくれたの」
「……みたいだな」
「片方は、文化祭で使うことにした」
直葉は心を決め、和人の眼を真っ直ぐにとらえた。
「──もう片方は、今お兄ちゃんの前で歌うことにしたわ。聴いてくれるよね?」
和人は一瞬驚いていたが、すぐに頷いた。
この間は和人に、酷いことを言ってしまった。言ってはいけないことを言い、傷つけてしまった。なのにどうして、あんなに優しい表情ができるのだろうか。きっと直葉には無理だ。
直葉が和人への想いに気がついたのは、彼の過去について親から教えられた頃。本当の兄ではないことを知り、直葉は気づいてはならなかった想いに気がついた。
今日はその想いにケリを着ける為にここへ来た。
直葉はすうっと息を吸い込んだ。
──"そんなのわかってるよ"
何度言い聞かせて君から目を逸らしただろう
掛け違えて余ったボタンは
一つこぼれた涙みたい
──"そんなのわかってるよ" でも伝えたいよ
きっと真っ直ぐな言葉で 向き合うから
直葉は和人へのありったけの想いを歌に込めた。
だからもう、未練はない。和人をこれだけ傷つけてしまったのだから、もう二度と会わない覚悟だ。
「……スグ」
「やめて、お兄ちゃん。何も言わないで。わかってるから」
「……ありがとう」
意外な言葉に
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