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戦場のヴァルキュリア 第二次ガリア戦役黙秘録
第1部 甦る英雄の影
第2章 緑の迷宮
出会い
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員と合流すべく退出したアンリは、ゆっくりと目を閉じ、また開く。穏やかな光は消え失せ、冷えきった無感情さに切り替わっていた。


 ・ ・ ・ ・


 クローデンの森に中世半ばに築かれた古城、ガッセナール城は第二次戦役勃発の直後に帝国軍によって陥落され、後に正規軍主体で行われた奪還作戦にて多大なガリア陸軍が多大な被害を被った場所だ。城を囲む森は緑豊かな原生林と高低差の激しい丘陵地帯であり、天然の要害である。
 そこも帝国の勢力圏に収められ、森に補給基地が構築され中央の戦力とガッセナール城の補給線として機能している。南部ガリア方面侵攻部隊指揮官のアルベリヒ・セグワンも、帝国本土から到着までに二日を要したほどだ。
 新兵器『クラーケン』と並行して開発した伐採車が無ければさらに日を要したに違いない。司令官室でメルフェア攻略のための作戦を練っていると、扉を叩く音がした。短く「入れ」とだけ答えると、入ってきたのは黒服のガッセナール城司令官だった。

「将軍閣下、偵察からの報告が」

「簡潔にまとめろ」

「は。現在、メルフェアにはガッセナール城に駐留していたガリア軍の大隊が駐屯している模様です。こちらの機甲師団で踏み潰せる数とのこと」

「よし。伐採車を先頭に第一陣を出撃させろ。遅れて二陣を出すのだ」

 薄暗く、閉めきった部屋の奥で指示を出すアルベリヒは人間離れした気味の悪さがある。司令官もその嫌な気配を感じたのか、僅かに顔色が優れない。『死神』と呼ばれる男が放つ異質な空気に飲まれそうになりながらも、彼は必死に堪えた。

「は。準備を急がせます。それでは、私はこれにて」

 言うべきことを言ってしまうと、司令官は逃げるように部屋を後にした。


 ・ ・ ・ ・


 メルフェア市に到着した『ヴェアヴォルフ』は強硬進軍の疲労を癒す必要に迫られ、日が変わるまでの間だけ休息となった。国民の戦意高揚を狙った喧伝により、アンリたちは今や英雄として人気を博していた。宿舎の周りには特務部隊の勇姿を一目見ようと市民が集まり、宿舎の中では義勇軍や正規軍の兵士たちがエースの来訪に沸き上がっていた。

(メルフェアか。確かこの辺りには美味いパン屋があるらしいが、探している場合ではないな……)

 アンリは広間になった場所で無念の情に項垂れていた。『天から賜った一品』と謳われるほどの味を誇るアリシア・ベーカリーのシナモンパンを目前にして食べられないことが残念でならないのだ。かのコーデリア・ギ・ランドグリーズ大公も好み、時には自作するほどのパンであれば余程の味である。

(……気になるが、外に出たら余計に疲れそうだ)

 ちなみに、アリシア・ベーカリーでは世にも珍しい虫パンとやらが看板メニューとして知られている。ランシ
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