第九十四話
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魔力を通し、その魔力の残滓に抗いながら石段を降りていく。
するとそこには地獄があった。
数多くの蟲がひしめくその地下室の真ん中に、蟲に嬲られている全裸の少女の姿が彫像のように石化していた。
なるほど、アテナがひと睨みでこの屋敷全ての物体を命ごと石化させたのだろう。おそらくだけど、彼女には石化を解く事も容易いからこのような凶行にも踏み切れると言う事だろう。
確かに相手を無力化することには向いていたし、敵は私達を見る前にすでに石化しているのだろう。
「…趣味の悪い。人間は此処まで醜悪になれるものなのか」
唾棄するようにアテナが言う。それは人間と言う種を侮蔑しているかのような言い方であった。
イリヤスフィールもこの光景には自然と表情が険しくなる。
「わたしも幸せじゃな方じゃないと思っていたけれど、彼女よりは幾分もましだったわ。ホムンクルスのわたしだけれど、人間のような扱いをしてくれたもの。でも彼女は逆ね。人間なのに扱いが家畜と変わらない」
私は石化した蟲の上を歩き、彫像と化した桜へと歩み寄る。
その蟲に嬲られている余りにも凄惨な桜の姿に私の体は震え、そして嗚咽が漏れる。
「ゴメンね、桜。ダメなおねえちゃんで…気付いて上げられなくてごめんなさい…」
「そこを退くがよい。その少女だけ石化を解こう」
私が退けるとアテナは桜の周りだけ石化を解いた。
「桜っ!」
私は桜を引きずり出すと群がる蟲を振り払いう。
私を犯そうと食らいつくその蟲はアテナが次々と石化させていく。
「………おねえちゃんは…だれ?」
蟲から引きずり出した桜は抑揚の無い声でそう言った。
「桜…っ!」
「後はアオの方がうまくやるだろう」
そう言ったアテナはその形を一瞬で男の姿へと変える。いつものチャンピオンの姿だ。
「ねぇ、チャンピオン。その子の事どうにか出来る?助けて上げられる?」
イリヤが彼に聞いた。
「どうにかって言われてもな。俺は医者じゃないし、精神を治す事は出来ないよ」
「そっか…」
ただ、と前置きしてからチャンピオンはとんでもない事を言う。
「無かった事には出来る」
「え?」
無かった事に出来るとはどういう意味か。
「どういう事?」
「言った通りの意味。彼女の時間を巻き戻せば、経験も思い出も消えていく。犯された体も元に戻るだろう。思い出や記憶は魂にも刻まれているから、完全とはいかないかも知れないが、まぁその大部分は覚えていないはずだ」
なるほど、確かにそれならば無かった事に出来るだろう。
桜のこの一年を無かった事にする。だが、それは桜のこの一年を否定する事だ。だが…
「お願いするわ、チャンピオン。
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