第二部 文化祭
第26話 真実
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「どうせ、あたしのこと避けてたんでしょ……?」
直葉はひたすら、和人の細い肩を揺らし続けた。和人は驚きの表情を見せていたが、やがて唇を噛み、震える声で言った。
「……そういうわけじゃ」
「あたし、お兄ちゃんのことが好きだった。会いたくて会いたくて、会えないことがすっごくすっごく寂しくて、アインクラッドに編入した。想いを伝えて、ふられたとしても満足するつもりだった! ……それなのに、隣にはいつもアスナさんの姿があって!! あたし、あたし……」
直葉の言葉に、和人はわずかに眼を見開いた。
「好き……って……俺たち」
「あたし、もう知ってるんだよ」
これ以上言ってはいけない。けど、もう自分を止めることなどできなかった。
「お兄ちゃんは、本当のお兄ちゃんじゃない」
直葉の眼から一筋の雫がこぼれ落ちることを感じた。
和人の表情が曇り、凍りつく。
「本当の両親は、お兄ちゃんが6歳だった頃にラフコフに殺されちゃったんでしょ」
ラフコフというのは、ラフィン・コフィンの略称で、笑う棺桶と書く。世界中で有名な殺人集団だ。
10年前に突然和人たちの家を襲撃してきて、危うく殺されかけた和人を庇った両親は死亡したのだという。幼い少年のどこにそんな力があったのか、和人は襲撃者から剣を奪い取り、驚くほどの剣技で相手を無力化させた──と直葉は母親から聞かされた。
直葉の母親・桐ヶ谷翠は神聖術で事件直後の和人の記憶を辿ることによってその出来事を知ったらしいが、今や和人はその記憶を喪ってしまっている。親の死がよほどショックだったのだろう、と医師は言っていた。
「あたし、久しぶりにお兄ちゃんに会えて嬉しかった。なのにお兄ちゃんはちっともあたしを見てくれない!」
和人は拳をぎゅっと握りしめた。
「家では視線すら合わせてもらえなかったのに! どれだけ辛かったか……悲しかったか、お兄ちゃんに解るの!?」
和人の伏せられた眼に、無限の闇が広がっていった。
「……ごめんな」
和人の口から声がもれる。
直葉は見ていられなくなり、力なく手を離す。
「……さよなら、お兄ちゃん」
直葉は呟くように言った。
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