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友人フリッツ
第三幕その三

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第三幕その三

「ちょっとね」
「何かよくわからないけれど大丈夫だね」
「そうだよ、大丈夫だよ」
 気持ちは焦っていてもである。
「だから安心していてくれ」
「わかったよ。それじゃあ」
「うん、少ししたら戻るよ」
 こうやり取りをして部屋を出る彼だった。その入れ替わりに籠に多くの様々な種類の果物を入れたスーゼルがやって来たのであった。
「あの」
「ああ、スーゼルさん。来たんだ」
「フリッツさんは」
 おずおずとした声でダヴィッドに問うのだった。
「何処に」
「今はいないよ」
 肩を少しだけ竦めさせての言葉であった。
「ちょっとね。馬に乗って来るそうでね」
「馬にですか」
「うん、馬にね」
 このことを彼女にも話すのだった。
「だから今はね」
「じゃあ私はこれで」
「ああ、それはいいよ」
 帰ろうとする彼女を押し止めた。
「少ししたら帰るそうだから」
「そうですか」
「だから待っていてくれないから」
 穏やかな声で彼女に告げる。
「今はね」
「わかりました」
 彼のその言葉を受けるのだった。
「じゃあ今は」
「さて、それでだけれど」
 スーゼルを呼び止めてから言う彼だった。
「私はこれで」
「どちらへ?」
「私も少し用があってね」
 微笑んでの言葉であった。
「それでね。少しこの場を後にするよ」
「そうなのですか」
「もう少ししたらフリッツが帰って来るから」
 このことを言い加えるのだった。
「だから待っていればいいよ」
「はい、わかりました」
 ダヴィッドの今の言葉に頷くスーゼルだった。そうしてダヴィッドを見送ってそのうえで彼を待つことにした。果物が入った籠を持ちながら。
 暫く俯いて儚げに待っていた。しかしふと。
 思いのままに言葉が出て来たのであった。
「あの人がいないと」
 こう言うのである。
「私には涙と苦しみしか残っていない。あの人がいてくれないと」
 こう呟いた後も項垂れて立ったままでいると。フリッツが部屋に戻って来た。
「あっ、フロイライン」
「フリッツさん」
「聞きたいことがあるけれど」
 挨拶より先にこの言葉を告げたのだった。
「いいかな」
「何ですか?一体」
「結婚するというのは本当かい?」
 このことをである。
「それは本当なのかい?」
「結婚ですか?」
 今の言葉にはっとした顔になるスーゼルだった。
「私がですか」
「違うのかい?」
「いえ、それは」
 目をしばたかせながら彼に言葉を返す。フリッツの顔を見るととても冗談を言っている顔ではないのでそれが余計に気になった。

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