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ヴァレンタインから一週間
最終話 夜景
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としている以上、彼女はこの世界から消えるはずはない。
 情報統合思念体と言う連中は、自称しているほど、完璧で、更に完全な、進化や進歩を極めた存在と言う訳ではなさそうやからな、俺はそう言葉を締め括った。
 その程度の連中に今の彼女に手を出せる訳は有りません。

 その瞬間、水平線の彼方に確かに存在していた紅い女神が波の向こう側にその姿を完全に隠した。
 今、ひとつの時間が終り、そして新しい時間が始まる。

 そして……。
 何もなかったはずの空間。俺の二メートル前方に現れた蒼い光輝が現われた。何の前触れもなく唐突に。

 空中の有る一点より、天に向かって放出される光の柱を見つめる俺と……有希。
 その瞬間、有希から覚悟にも似た哀しい雰囲気が発せられ、そして、俺の横顔に向かって僅かに首肯いて見せた。

 その仕草を最後まで確認した後、少しずつ高度を下げて行く俺。目的のあの場所に向かって。
 その時、有希が再び、俺の首に腕を回した。
 二度と離れないように強く。
 それは、まるでお互いの優しさ(温もり)を確かめ合う儀式のように、俺には感じられた。

 その俺と有希の前方二メートルの距離を維持しながら共に高度を下げて行く魔法陣。
 この陣は見た事が有る。おそらく、この有希の暮らして来た世界と、俺の元々暮らして居た世界との間に存在していた次元断層が解除された為、お師匠様が俺の為に帰り道用の次元の扉を開いてくれたと言う事。

 そして、それは――――

 音もなくそっと降り立ち、自らの腕の中に存在する少女をマンションの屋上のコンクリート製の床の上に開放してやる。
 離れ難い……。このまま、次元の扉の向こう側にまで彼女を連れ去りたい、そんな有り得ない妄想に支配されながら。

 何か言い掛けて、しかし、彼女は言葉を呑み込む。
 その瞬間。最後に舞った花びらが彼女の頬に触れ、そしてその姿を変えた。

 ゆっくりと彼女の頬を伝う雫が、まるで――――

 正面から相対した彼女の冷たい頬に手を当て、頬を伝う蒼穹からの雫をそっと拭き取る俺。
 少女は、その俺の右手にそっと自らの手を重ねた。
 その仕草ひとつひとつが言葉。短い間、しかし、濃密な時間の中に培われた俺にしか通じない彼女の言葉。

 自らの瞳に彼女を焼き付けるかのように見つめる俺。
 そう。少女特有の白いうなじから華奢な肩に続く……未だ女性に成り切る事のない線。
 染みひとつ見つける事の出来ない処女雪の白を持つ肌。
 何時も見つめられると、思わず視線を逸らして仕舞うメガネ越しの視線には、普段の彼女から感じる事のない言葉を強く感じる。

 そして――――
 そして、僅かな余韻を残して解放される俺の右手。

 彼女が瞳のみで首肯いて見せた。こ
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