最終話 夜景
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俺の首を解放し、蒼穹に向け差し出した彼女の小さな手の平の上にゆっくりと舞い降り、
そして、儚く消えて行く。
次々と舞い降りて来る白く冷たく繊細で微小な結晶体は、しかし、僅かな温かさに触れた瞬間、儚く消え去って仕舞う幻の花びら。
蒼穹に向かい手を広げたまま動こうとしない有希。その彼女の様を見ているだけで、何故か涙がこみ上げて来る。
「願わくは花の下にて春死なむ その如月の望月の頃」
蒼き月。蒼穹に存在する星と、地上の星々。そして、彼女と、彼女の温かさに触れ儚く消えて行く蒼穹からの花びら。
思わず洩らされる呟き。そんな独り言に等しい呟きが、俺の口元を白くけぶらせ……。
その呟きの間にも、彼女の温もりに因り小さな結晶は儚く消えて行く。
「ちりぬべき時をしりてこそ世の中の 花も花なれ人も人なれ」
手の平に舞い降りる花びらを見つめたまま、彼女はそっと呟いた。
何故か……。いや、勘違いで有る事を祈るしか有りませんか。
彼女自身が、自らがこのまま消えて仕舞っても構わない、と思っていない事を……。
そして訪れる空白。
ゆっくりと過ぎて行く時間。その間もずっと舞い続ける風花。
世界は、今まさに沈みつつある紅き女神。更に未だ中天に輝く蒼き偽りの女神。
そして、晴れ渡った蒼穹から舞い落ちる風花が支配する冷気と静寂に包まれた世界で有り続けた。
………………。
…………。
「トコロでなぁ、有希。その情報連結の解除と言うのは、未だ終わらないのか?」
風花と紅蒼ふたりの女神を瞳に宿した後、変わらない温もりを感じさせ続けてくれて居る少女に対して問い掛ける俺。
俺と、自らの手を交互に見つめ、そして、不可解と言う雰囲気を発する腕の中の少女。
少しの微笑みを浮かべ、腕の中の彼女を感じ続ける俺。
そう。今更ながらに感じて居たのだ。彼女を失わずに終わった事の幸せを。
そして、
「今の有希が、思念体に否定されたぐらいで簡単に消えて仕舞う訳はない」
……と、そう告げた。口調は出来るだけ平静を装いながら。
但し、これは俺に取っては当然の帰結。彼女の造物主たる思念体が今更、何を仕掛けて来ようが彼女には指一本触れさせない状況を作り上げた心算ですから。
「もしも……。もしも、有希の事を誰も必要としていない。ここがそんな世界なら、思念体程度でも有希の事をこの世界から消す事が出来たかも知れない。
しかし、有希の事を必要だと思っている俺がここに居て、更に命数が尽きて居ないオマエさんを、この世界から消せるほどの現実を歪める能力を思念体が持って居るとは思えない」
そう。誰かが必要だと思っているから、其処にその誰かが存在して居る。そして、有希の事を俺が必要
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