最終話 夜景
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れで、どうせ消える可能性が有るのなら、俺の腕の中で消える事を望んだ。そう言う事かな?」
俺の問い掛けに、微かに……動いたかどうかの判別が付かないほど小さく首肯く有希。
確かに、この街の夜景を見下ろせるこの位置ならば、彼女は間違いなく俺の腕の中に存在する事と成ります。
更に、自らに対する思念体の支配が絶対の物だと考えて居たのなら、この有希の対応にも首肯けはします。
「羅?星との戦いが終わった直後から、復活した思念体からの交信をすべて拒否して居たわたしに対して、思念体は最終通告を行って来た」
淡々と、普段通りの抑揚の少ない平坦な口調でそう話し続ける有希。
「交信を行わないと、その情報連結の解除とやらを行うと恫喝して来た、と言う事やな」
俺の問い掛けに、悲愴感も。悲観すらも発する事なく、ただ、普段よりは少し強い陰の気と、何故かその中に微かな陽の気を放ちながら、先ほどと同じように微かに首肯く有希。
「二月二十二日午前零時を以て、わたしと思念体との情報連結は解除される」
成るほど。それに、対応としてはそう奇異な対応と言う訳では有りませんか。
しかし、有希やその他の対有機生命体接触用人型端末たちとの連絡が途絶えたのが一週間前の二月十四日。それから一週間。思念体からのバック・アップもなしに過ごして来た有希に取って、今更彼らからのバック・アップなど……。
そう考え掛けた俺。しかし、直ぐにその考えを否定する。
それは、彼女の言う情報連結と言う作業が、もしかすると有希自身の身体の組成に影響を与える事象の可能性もゼロではない、と気付いたから。
例えば、その情報連結を解除すると言う行為が、彼女自身に仕組まれて居たはずの危険なギミックが発動する切っ掛けとなり、致死遺伝子のような物が動き出す可能性もゼロでは有りませんから。
そう。伝説上の人魚姫のように、俺の腕の中で光の泡と成って仕舞う可能性も……。
「そうしたら、有希は後どれぐらいでその情報連結を解除された状態となるんや?」
有希にそう問い掛けながら、俺は待機状態と成って居た水の精霊ウィンディーネを起動させる。
「後、百八十秒後」
自らの生命のカウントダウンを行って居るとは思えない、波ひとつ立つ事のない湖にも似た落ち着いた雰囲気でそう告げて来る有希。
いや、何故かその中に、矢張り奇妙な安寧を示す気を発して居るのは間違いない。
ただ、そんな事はどうでも良いですか。
【ウィンディーネ。俺の居る場所だけに雪。風花を舞わせてくれるか】
その瞬間。俺と有希に冷たい北風が吹き付けて来る。
そして……。
風に混じる天からの花びら。
いちまい、にまい。
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