第9話 「手は届く。目は届かない」
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返りました。
「皇太子殿下、マクシミリアンの後見人になっていただき、感謝しております」
本当にそう思います。
皇太子殿下がなって下さらなかったら、この子はそうそう生きていられなかったでしょう。
皇太子殿下のご威光のみが、この子を守る楯です。
「気にする事はない。それより、マクシミリアンを立派に育ててやれ。貴族の馬鹿息子にはするなよ。後は本人の才覚次第だ。期待しているぞ」
「……はい」
後は本人の才覚次第……おそろしいお言葉です。
才覚がなければ、切り捨てる事も辞さないのでしょう。もしくは人畜無害な子。いてもいなくてもいい子。この子の立場をわたくしに、はっきりと伝えられました。
ただそれだけに、皇太子殿下はマクシミリアンに、同情しておられるのでしょう。
冷酷さと優しさを、同時にお持ちになって、それを表す。
不思議なお方です。
■宰相府 アンネローゼ・フォン・ミューゼル■
皇太子殿下は、後宮から戻ってきてからというもの、ベランダで外を眺めておられます。
珍しい光景です。
いつもは忙しくしておられる方が、なにもせず、ただ風景を眺める。
本当は風景など、見てはおられないのでしょう。
テーブルに置かれているシャンパンも、手に持ったグラスも、中身は一向に減る様子がありません。ぼんやり手に持ったグラスを、くるくると回しています。
何を見ておられるのか……。
「……皇太子殿下」
「うん? ああ、アンネローゼか」
「何をごらんになっているのですか?」
ほんの少し、首を傾げて、わたしを見ています。
なんだか元気がなさそうです。
「……一人分の人生」
皇太子殿下が、ぽつり零されました。
また、どこか遠くを見ています。
一人分の人生ですか?
どういう事でしょうか?
「俺はずっと、自分の両手が届く範囲が、幸せであれば良いと思っていた」
「自分の両手の届く範囲」
私は自分の両手を広げてみます。いがいと広いかもしれません。それとも狭いのでしょうか?
「皇太子っていうのは、帝国の端から端まで届くんだな。知らなかった。帝国二百五十億の人間。その全てに、手が届いてしまう。目は届かないのに」
「皇太子殿下は、帝国宰相閣下ですし」
「目が届かないのに、手が届く。自分の言葉が大勢の生活を変える。変えてしまう。望もうと望むまいとな。だというのに、たった一人の赤子にすら、目が届かない」
ベーネミュンデ侯爵夫人のこどもの事でしょうか?
マクシミリアン・ヨーゼフ・フォン・ベーネミュンデ。
「あの子を守るのに、名前一つしか、与えてやれない」
「たった一つの名前で、守れるのではありませんか?」
「そうかもしれんな。そう考えると、
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