第二部 文化祭
第21.5話 彼女の表情
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俺とアスナ、ユイの3人は、学園内にある花の丘に来ていた。ユイが突然「ピクニックしてみたい!」と言い出したからだ。
ユイは花の冠を作って遊んでいる。
「ユイちゃんって可愛いわよねぇー」
アスナがうっとりとした口調で言う。
「そうだな」
俺は短く返した。すると、何故かアスナは拗ねたように頬を膨らませる。
「……わたしとどっちが?」
「えっ」
「ユイちゃんとわたし、君はどっちが可愛いと思うの?」
淡々と言っているようにも聞こえるが、どこか恥ずかしそうだ。
──アスナって、もしかして。
いや、アスナはかの有名な、学園のアイドル?閃光?だ。俺のことなんて相手にするわけがないじゃないか。
──って、ちょっと待て。俺はいったい何を考えているのだ。
「な、なに言ってるんだよ……」
「……そうだよね、困っちゃうよね。いきなりこんなこと訊かれても」
アスナは震える声で言うと、俯いた。
「……ユイは可愛いよ」
俺は小さく、しかし聞こえるように口にする。
「でも……」
自分がなにを言いたいのか、正直わからない。
「だけど、アスナも……その……」
アスナがまっすぐに、上目使いで見つめてくる。俺は堪らなくなり、視線を逸らした。
次いで、ぼそぼそ呟くように言う。
「……可愛いと言いますか、綺麗だなあと思いますよ」
動揺バレバレの言い方だ。
「キリト君……!」
アスナはふわりと笑うと、正面から飛びついてきた。俺は咄嗟の出来事に対応しきれず、背中から花畑に倒れ込んでしまう。その勢いで無数の花びらがひらひらと舞い、降ってくる。
アスナは顔を上げると、にっこりと微笑んだ。──正直なところ、びっくりするほど可愛らしかった。
彼女は表情がころころ変わる。時には凛々しい剣士、時にはあどけなく、時には拗ね、時には──。
他にはどんな表情をするのだろうか。まだ見たこともないようなものもあるのだろうか。
俺はそのすべてを見てみたいと思った。
「……ありがとう、キリト君」
桜色の唇が音を刻んだ。
もしかして俺は、ずっと前から彼女のことを──
そこで一度思考を無理やり停止させてから、俺は苦笑いした。
「パパ、ママー!」
いつの間にか結構な距離離れていたユイが、遠くから呼んでいる。アスナは俺に細い手を伸ばした。
──行こう、キリト君。
──ああ、そうだな
視線だけで送り合うメッセージ。パートナーだからこそできること。
伸ばされた彼女の手を取り、起き上がった。
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