第二章:空に手を伸ばすこと その五
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私が思うに、あの火には戦いに勝利した人々を讃える、天の意思が現れているに違いないわ。覇道は血塗られずして満願成就の赤い花を咲かせない。それを知らせるための光が、戦争の炎に姿を変えて、私達に常に覚悟を問いかけている。『その思いは揺るぎのないものか』、『後悔せずに歩めるのか』と」
「・・・一軍の指導者らしい凛然と解釈です。たしかに、戦いの惨禍を見渡せばそう感じても不思議ではないかもしれません。でもきっとこういう捉え方もあるんだと思います。『ここに散った人々はすべて天の息子であり、大地の息子。好悪に関わらず、彼らの命はすべて報われるべし』と」
「優しい解釈ね。悪くは無いわ。『王道』を進むというのならそれもありでしょう。でも、覇道が仰ぐにはあまりに色褪せた旗ね。すぐにでも風に飛ばされて、空に消えてしまうわ」
「消えても旗にとっては願ったり叶ったりでしょう。自分を息子と認めてくれた、大いなる大自然に還っていくんですから。俺はごめんこうむりますけど」
曹操は悟られぬように頬を緩めた。それは半分は呆れからきたものでもあり、半分は興味から沸いたものでもあった。
(たかが客将の立場なのに、騎都尉相手によくも堂々とそんな言葉を言えるわね。相手が相手だったら不快と取られかねないのに。よほど図太いか、あるいは本当に・・・)
一つの疑いが彼女の中に生まれる。それはほとんど冗談、それもセンスの無い部類に属する、と大した差が無いものだったが、不思議と仁ノ助相手なら冗談にならぬような確信が曹操にはあった。そしてそれを彼女は聞く。
「一つ聞きます。あなたはそれに対して誤魔化さずに答えなさい。・・・あなたは中原の人間かしら?それとも匈奴?」
「・・・・・・いえ、違います」
「・・・つまり、天から来たのね」「っ!!」
面白いまでに仁ノ助は反応した。といっても瞼をびくりと震わせただけであったが、海千山千の政治の世界に入っている曹操にとっては、ただそれだけの動揺で全てが把握できてしまうものであった。曹操は堪え切れぬように小さく笑みを零す。
「くっく・・・くくく・・・」
「・・・曹操様。できればこのことはどうか、他の人には内密にしてもらいたいのです。私の出身が露見した所で何か困った事が起こるとは考えられません。ですが万が一、何者かが手心を加えんとして曹操様の御近くを騒がすかもしれません。ゆえに、秘匿すべき情報は戸外に漏らさないでいただければ・・・」
「ええ。そんなの大丈夫よ。あなたに不利が働かぬよう出身については伏せておくわ。それにしても天とは・・・つくづくこの曹孟徳、自分の運の巡り会わせというものに笑いたくなるわね。くく・・・」
「・・・あの。どうしてわかったんですか?」
「ただの直感、といっても納得しないでしょうね。ではこう言いましょう
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