第二章:空に手を伸ばすこと その五
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て」
「・・・その時にはもう、世は乱世に入っていくと悟っていたのか」
「ええ。黄巾党の走りみたいな連中が村に来たので。御蔭で武器を持たざるを得ませんでしたよ。こいつよりかは軽いやつですけど、ハハ」
「・・・それで仁之助殿。あなたの故郷は?」
「あ、あれ。誤魔化しに乗ってくれないんだ?参ったな・・・」
仁ノ助は後ろに手をやって指の腹同士をすりすりと擦り合わせる。何かに窮するとついやってしまう癖であった。とりわけ、出身地という重大な事に関しては。
彼はこれまでの旅すがら、出身はどこかと聞かれれば地方の農村であると答えてきた。そうすれば相手もそれとなく空気を呼んでくれて、追及を避けてくれるからだ。しかし軍のような大規模な組織に所属するのであればその言い訳は通用しなくなるだろう。否応なしに家族の扶養という概念が発生するからだ。もし自分の嘘がバレてしまえば、誰と面しても微妙な空気を出さざるを得なくなってしまう。かといって真実を、自分は異世界から来ましたと告げてしまってもいいものだろうか。狂言を吐いたと罰を受けてしまうのではないか。そんな危惧が仁ノ助の胸中に生まれてしまい、二の句を告げなくなるのであった。
夏候淵は彼の葛藤を見抜いたのか、一歩妥協して、会話が途切れないようにした。
「・・・何か言えないような事情でもあるのか?」
「ないって言ったら嘘になります。ただ、これを言っていいものか、まだ決心がつかないのです。・・・何となく、曹操様は察していそうですけど」
「? 言ってもないのにか?」
「ええ。あの人は常人とは違う視点をお持ちです。その視点の置き方を工夫すれば、俺が言葉を濁したとしても、あの人には分かってしまうでしょう。そんな気がします」
「・・・えらく華琳様を買っているのだな。つい最近遭って、その旗を仰いだばかりなのに」
「は、はは。御噂は旅すがらかねがね聞いていましたので。・・・主に、悪い方の噂を」
「ふっ。悪事は千里を走るという事か。やれやれだ・・・っ!そうだ、あなたの連れについて話さねばならぬ事があった」
「っ!詩花は無事ですか?」
仁ノ助は自分の相棒を心配しながらも、それ以上の追求が避けられた事に感謝した。後に、これが夏候淵が気を回してくれたものであると知ると、彼は再び彼女に謝意を抱くのであった。
「ああ。あいつは見事な働きぶりだったぞ。怪我も負っていなかったし、初戦の割にはまぁまぁの出来だ。だが少し面倒な事があってな」
「なんです?あいつの助けとなるなら、何でもします」
「では、なんだ・・・城に行って様子を見てやってくれ。手を借りたいという奴がいるからな。できれば穏便な方向で頼むぞ?いいな、穏便だぞ?」
「??」
仁ノ助は疑問を抱きながらも、彼女に従って首肯する。なぜ念を押されたのか
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