第二章:空に手を伸ばすこと その五
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でみたら振り向いたので、多分そいつかとーーー」
「ちょ、ちょっと待て!今、波才って言ったな!?言ったよな!?」「え、ええ」
「何も言わずにそれを私によこせ!!悪いようにはしないから!」「へ?ま、まぁいいですけど・・・」
そう言って木箱を差し出す。むんずとばかりに夏候惇はそれを奪うと恐ろしい勢いで階段を下って、愛すべき主の下へと駆けて行った。奇怪な叫び声を残しながら。
『華琳様ぁぁっっっ!!私の軍が、私の兵が、敵将を討ち取りましたぞぉぉっ!!!』
「・・・褒めてもらいたいなら最初っからそう言えっての・・・。あんなの俺いらねぇし」
「すまぬな。姉者は自分の心の機微を悟られると羞恥心を覚える人間でな」
「おや、夏候淵将軍。あなたも御無事で」「ああ、何とかな」
夏候惇とは入れ違いに夏候淵将軍が現れる。美麗な水色の髪は少しばかり乱れており、戦場における彼女の活躍を想像させた。
仁ノ助の瞳がまた夏候惇の背中をちらりと見遣ったのに気付き、彼女は苦笑気味に言う。
「案ずるな。姉者は人の手柄を奪うような邪な真似はしない。あなたの事もしっかりと報告されている筈だ。敵将は討ち取られ、長社における危険はすべて払われたとな。・・・どうだ、戦場の空気は。これほどの大規模な戦いに参加するのは、あなたも初めてでは?」
「まぁ、実を言うとそうなんですよね。今まで相手してきた連中ってのは、みんな大して訓練をしていない賊徒ばっかりで、相手する時も多くて二、三十が限界でしたから。もっとも、その時は逃げてばっかりでまともに戦っていませんでしたけど」
「だがこうやって生きているではないか。何か秘訣があると見た。戦場を生き残るための大事なものが」
「将軍に御目を掛けてもらえるほどのものではありませんよ。・・・まぁ強いていえば、戦場の空気を支配する者・・・たとえば指揮官とか、軍師とか。或は精神的な支柱となっている人物とか。そういうのを真っ先に斃して、後はなるべく自分に近い奴から倒す。これが俺の生き残るための秘訣みたいなものです。これに従ってきた御蔭で、俺は一年近くも生きられた。それだけですよ」
謙遜するように言うが、彼のやっている事は素人がおいそれと出来るものでは無い。一体多数の苦労を知っているのか、夏候淵は首を振った。
「なにがそれだけだ。あなたは立派に戦いの道理というものを御存知だ。中途半端に狡い真似で生きてきた人間なら、もっと卑しい事を言ってのけるのだが、そうではないのだな。今更聞くのもなんだが、仁之助殿は何処の出身なのだ?楊州か?或はもっと北の・・・徐州とか」
「・・・俺がこのやり方で生きて行こうって決めたのは、豫州の沛国にいた時でしたね。そこで友人を作って、そいつと人生相談をしながら決めたんですよ。『俺は乱世の中に飛び込んでいく』っ
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