才能と覚悟
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も追ってこない。
それはそうだろう。自分など追う価値もない。
きっと彼らは笑っているだろう。
笑われる事にはなれていた。
でも、その笑いはそれまで無能と彼のことを笑っていた同僚の笑いとは違う。
自分の才能や技術に対しての笑いではない、それまで自分が唯一自信を持っていた根幹たる覚悟を笑われているのだ。
父の敵を取ると、心の中で誓った覚悟を。
それに対して、それまでのように同調するように笑って誤魔化すことはできない。
けれど――それなら、何故自分は……逃げている。
もっと反論すれば良かった。
馬鹿にするなと、上級生が相手でも言えば良かったのだ。
でも、出来なかった。
その理由をテイスティアは知っている。
反論をしなかったわけではない、反論が出来なかったのだ。
心の中では父の敵を取ると思い、周囲に笑われることも出来ない事も、それを免罪符にして逃げてきただけだった。
それを真正面から、テイスティアは見せつけられることになった。
そして、現に自分は逃げた。
走りながら、情けなくなり――自嘲めいた笑いが口から洩れる。
結局、自分は逃げるだけしかないじゃないかと。
まるで氷のように心を抉ったアレスの言葉が、今は酷く甘い蜜のように感じられた。
――君は辞めた方がいい。
+ + +
「随分と優しいことだ」
鼻を押さえながら、ワイドボーンが立ち上がり、言葉にコーネリアとローバイクは顔を見合わせた。
アレスの言葉のどこに優しさがあったというのだろうか。
確かにテイスティアの覚悟の足りなさには、彼らも思うところがある。
まだ子供とはいえ、士官学校は遊びで入れる場所ではない。
戦いを学び、働く場所なのだ。
それでも辞めろとは、面と向かってなかなか言えることではない。
「何も言わなくても奴は無能で進学できないと、何度も言っているだろう。何もしなくても辞めさせられる人間に、なぜわざわざ情けをかけてやる」
「自分の何が足りないかを考えることは大事だと、ワイドボーン先輩も良く知っているでしょう」
「ふん。俺はあんな無様に人前では泣いたりしなかった」
「左様で……。ま、それに気づいてもらえれば今の時期でしたら成績くらい取り返しがつきますし、逆に耐えきれないと辞めるなら辞めるのが早まっただけです。同じ辞めるのでも、早い方がいいでしょう」
「お優しいことだ。俺にはできんな」
「先輩も少しは優しくなってますよ、迎えにいく程度には」
「お前がいけといったんだろ。俺は言われるまで来てない事に気づきもしなかった」
「そうでしたか?」
小さく呟いて、アレスは肩をすくめた。
見下ろすワイドボーンに、苦笑を浮かべる。
「でも、やっ
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