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戦国異伝
第百三十六話 思わぬ助けその九

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「ましてや右大臣様に何かあれば」
「その時はですか」
「危ういですぞ」
 このことは念を押した、信長さえ、と思うことは充分に考えられるからだ。
「しかも今右大臣様の周りには毛利殿や服部殿がおられます」
「あの噂の」
 この二人は今川義元 のことでも知られている、常に信長の近辺を守る一騎当千の強者達としてだ。
「では部屋に攻めても」
「しかも前田慶次殿もおられます」
 彼の名前も出す。
「あの御仁も」
「では」
「また朽木殿の禄は右大臣様からのものですな」
 松永は話題を変えた、これまでは脅しだったが今度はこうした話だった。
「左様ですな」
「うむ、そうだが」
「この地をそのまま右大臣様に認めて頂いていますな」
「それだけではない」
 朽木はさらに応えて言う。
「田畑を開墾してもらい堤や道も整えてもらった」
「町もですな」
「あそこまで見事な政ははじめて見た」
 信長の政はその領国全体に及び、朽木の領地にしてもなのだ。
「全く以てな」
「それでここも豊かになり開けましたな」
「わしは金は出さなかった」
 人は出した、しかし金はだというのだ。
「他にも色々とよくしてもらった」
「では今の朽木殿の主は」
 朽木家は代々足利将軍家と縁が深い、義昭を匿ったこともその一つだ。
 だが今はどうか、松永はそこをあえて問うたのだ。
「どなたでしょうか」
「そう来たか」
「あえて申しませぬが」
「口外されませぬな」
 朽木は観念し腕を組んだ、その顔で松永に対してまずは確認したのだ。
「決して」
「それがしが何かを漏らしたことはありますか」
「ありませんな」
「はい、そうしたことはしませぬ」
 決してだというのだ。
「ですから」
「それでは」
「はい、どうぞお話し下さい」
「幕府に忠義を尽くしたいですが」
 それでもだというのだ、朽木はまずはこう切り出した。
「それでも今の幕府は。松永殿が為されたことで」
「むっ、その話ですか」
「こちらもあえて言いにくいことを申し上げます」
 そうするというのだ。
「義輝様は討たれ山城一国をやっと治めていた幕府もそれで都一つ治めることも出来なくなりました」
「ですな」
「最早幕府の命運は尽きておりますし」
 それにだというのだ。
「昨今の義昭様は」
「あの方ですな」
「元よりどうも危ういところのある方だった様ですが」
 近頃は特にだというのだ。
「最早どうにもなりませぬ」
「お二人の僧がいてですな」
「確か南光坊天海、以心崇伝殿でしたな」
「そうでしたな」
 松永はその目を一瞬だけ思わせぶりな感じに動いたがほんの一瞬だ。朽木も気付くものではなかった。
 普段の飄々とした人を食った感じの目に戻る、その目での言葉は。
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