第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十 〜愛の狭間〜
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勢いよく、頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「主。何かなさったのですかな?」
星にそう言われても、心当たりはない。
「済まぬが、礼を言われるような真似をした覚えがないのだが」
「あ……。ですよね……」
不意に、少女は落ち込む。
「主……。本当に、ご存じない、と?」
「何を怒っている。私が、そんな輩だと思っているのか?」
「そうではござらん。ですが、人違いでもありますまい」
「ならば、本人に確かめれば良いだけであろうが。ところで、名は?」
「あ、も、申し遅れました。わ、わたしは徐庶、字を元直と申しますっ!」
「徐庶……確かか?」
「ひっ!」
徐庶と名乗る少女は、ビクッと身を竦めた。
「怯えているではありませぬか」
「い、いえ……。そ、その、すみません……」
徐庶と言えば……あの徐庶しかおらぬであろう。
だが、どう見ても剣の遣い手には見えぬ。
……とは申せ、外見だけで判断がつかぬのがこの世界でもあるのだが。
「一つ、尋ねたい」
「は、はい! な、何でしょうか?」
「司馬徽門下の徐庶、で相違ないか?」
私の言葉に、徐庶の顔が驚愕に変わる。
「ど、どうしてそれをご存じなんですか?」
「……悪いが、それには答えられん。それよりも、礼の訳を知りたい」
「そ、そうですね。……太守さんに、助けていただきましたから」
何処の話か……。
この世界に来てより、救えた命も少なくはない。
……無論、そうでない命の方が、圧倒的に多いのだが。
「え、ええと……。先日、その……」
赤くなる徐庶。
「主……。一体、この娘に何をなさったので?」
「いい加減にせぬか、星。徐庶、言い辛いのであれば、無理にとは申さぬ」
「いえっ!……わたし、郭図の屋敷にいたんです」
「……では、郭図に拉致されていたのか」
「……はい。旅の道中、このギョウに立ち寄ったのですが……」
だが、妙だな。
「徐庶。お前は、撃剣の遣い手ではないのか?」
「ええっ! そんな事までご存じなのですか?」
「私の事は良い。それで、どうなのだ?」
「え、ええ。確かにわたしは、普段は剣を帯びています。……ただ、お風呂をいただいている最中に襲われてしまって」
「何と……。女の入浴時を狙うなど、卑劣にも程がある」
星が、珍しく憤怒を露わにする。
「それで、郭図に……か」
「はい……。ただ、わたし自身は、太守さんのお陰で穢されずに済みましたが……」
そう言って、徐庶は目を伏せる。
あの蔵の中では、夜な夜な郭図による陵辱が繰り広げられていたらしい。
拐かした女子《おなご》を鎖で繋ぎ、その眼前で別の女子を。
それを繰り返す事で諦め
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