崑崙の章
第19話 「一つ、我らは民の笑顔ために!」
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は国庫に入るというところすらある。
だが、税として収められる量は五官五民という、大陸でも珍しいほどの公平さ。
それは、今まで虐げられていた農民の所得が増えることを意味していた。
これらを大々的に作るために陸稲すら廃止して、その場所を畑として栽培し始めたのが今年から。
それからすでに百日前後。
早いところでは収穫が始まっているという。
その量は、すでに陸稲の数倍の量ともなるほどの豊作だそうだ。
食糧事情が一気に改善した漢中では、口々に劉備を称える言葉が爆発的に周辺へと広がっている。
動きの早い商人は、すぐに漢中に接触を図ったそうだが、その商いの代償にかなりの関税を強いているとのこと。
それでもこの商品は売れると見越して、漢中へとくる商人は後を絶たないらしい。
まだ、最初の作物ができるかどうかというのに……気の早いことだと思わざるをえない。
だが、そのお陰で空に近かった国庫がようやく潤ってきたようだ、と酒で気の良くなった兵が漏らしていた。
先行投資とやらを随分していたようで、官吏の面々はこれまで、ろくな俸給もなかったらしい。
特に、劉備は自分で使える金は一銭もないと言われている。
その全てを、国の発展にのみ使用しているとのこと。
その醜聞に、これまで漢中の官民ともに、質素倹約が旨とされていたようだ。
この街で話を聞いた子持ちの女性の一言が全てを語っているだろう。
『貧すれど、心は錦』
その甲斐あってか、この『じゃがいも』の豊作の話は、漢中でお祭りになるほどの賑わいだった。
どの民の顔にも笑顔がある。
(これが……目指したものですか)
この数日、漢中で民の話を聞きまわっていた。
すでにここに来るまでの間、様々な噂は耳にしていたが、どれも真偽の定かで無いようなデタラメばかり。
だが、漢中に近づくにつれ、他の土地とは違う雰囲気に目を、耳を奪われていた。
そこにいた人々は……穏やかなのだ。
そして、皆に生気が満ちていた。
(幽州周辺の虐げられた農民の怨嗟……洛陽で職もなく、死を待つだけの難民の数々……だが、ここはどうだ)
同じ大陸なのか、と思わず唸るほどの世界の違いに。
どんな妖術を使ったのだと、漢中の門をくぐる迄、疑心暗鬼にとらわれていたのが馬鹿らしい。
(此処こそが、私が望んだ場所かもしれない)
そう。
これだけ短期間に、民を笑顔にさせる場所。
それを成し得た者にこそ――
私は愛用の武器を手に立ち上がる。
ようやく見つけた、私のいるべき場所。
さて……では、挨拶に行くとしようか。
我が主となる方へ。
そして私は内城の門を叩くのだ。
「我が名は趙子龍!
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