第二部 文化祭
第19話 喪失
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「アリスの為だ。そんなのどうだっていいだろ」
和人はそう言った。
しかしユージオには、とてもそんな風には思えなかった。
確かにアリスは大切だ。幼なじみだし、ユージオ自身は淡い恋心さえ抱いている。
しかし、カセドラル──組織自体は公理教会と呼ばれている──を敵に回すだなんて、教会への、そして世界への最大の反逆だ。ユージオには到底できそうもない。
「……あなたはそう言うと思ってたわ、キリト。でも……駄目よ。あなたまで罪人になってしまうわ」
「いいんだ、そんなことは」
「よくないでしょ!」
アリスが和人の体を突き飛ばした。
「なに言ってるのよ! あなたは将来有望な剣士でしょう。わたしなんかの為に、カズの未来が台無しになるなんて……そんなのわたし、許さないわよ!」
アリスは小さい頃使っていた和人のあだ名を使った。
「……アリスのほうこそ、なに言ってるんだ?」
和人の言葉に、アリスは動揺の表情を見せる。
「お前だけの為なわけないだろ。俺がそうしたいからそうするって言ってるんだ!」
「……ッ」
言ってしまえば屁理屈だ。けれど、和人の瞳はいたって真剣なものだった。
アリスはふっ、と俯きながら笑う。次の瞬間、涙を拭きながら上げられた彼女の顔には、苦笑いのような微笑がたたえられていた。
「……ばか」
アリスが震える声で呟く。
「……もう、知らないわよ。どうなったって」
「ああ、どうなったっていいよ」
──ユージオには、そんなこと絶対、嘘でも言えない。
和人は平然と訊く。
「整合騎士が連行に来るのは、いつ頃なんだ?」
「12時きっかりよ」
「そうか。あと1時間ちょい、てとこか……アリス、逃げよう」
「逃げるって、どこに? 騎士様を侮ってはだめよ。きっと、どこまでも追いかけてくるわ」
「なら、法が及ばない場所に行く」
「い、1時間じゃ無理よ!」
和人は不敵な笑みを浮かべる。
「俺を甘く見るなよ」
和人はアリスとユージオの手を握った。次いで、思いっきり地を蹴る。
「きっ、きゃ──っ!?」
「う、うわ───っ!?」
アリスとユージオの悲鳴が響き渡る。和人が2人の手を握ったまま、突然豪速球の如く走り出したのだ。
「キッ、キリト! 異世界に行くってテは!?」
「ユージオまでなに言ってるんだよ! そんなの直ぐにバレちゃうだろ!」
「ふふふっ……あはは!」
アリスの楽しそうな笑い声がこだまする。
「おいアリス、あんま大声出したら台無しだぞ!」
言う和人の声も楽し気だ。
和人やアリスと一緒なら、どこまでも行けると思った。思っていた。
──しかし。
ふと空を見上げると、飛竜の影があ
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