第三十九話 読書感想文その五
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「かなり長いのよ」
「それでお母さんが読んだのは三銃士のところだけなのね」
「そう、流石に全巻読んでないわ」
全十一巻はとてもだというのだ。
「後はお話で聞いただけよ」
「全十一巻は流石に無理なのね」
「まあ同級生の娘でニーベルングの指輪の台本読んで感想書いてきた娘もいたけれど」
「ニーベルングの指環ってドイツよね」
「そうよ、ワーグナーのオペラよ」
ワーグナーの作品は楽劇と呼ばれることが多い、だがワーグナー本人はこの呼び方を好まなかったという。
「全四部作上演十五時間のね」
「滅茶苦茶長い作品なのね」
「その娘演劇好きで忠臣蔵の台本も読書感想文にしたことがあったのよ」
日本のものもだというのだ。
「それでそのオペラの台本を感想文に使ってね」
「先生にいいって言ってもらえたの?」
「何も問題なしでね。ただね」
「ただって?」
「全十五時間、台本は日本語の役もあったけれど」
それでもだというのだ。
「ぶっ通しで聴いたのよ、一日かけてね」
「十五時間もなの」
「朝から晩までね、そこから書こうと思ったら」
どうなったかというと、これが。
「気力が尽きて二日ベッドから起きられなかったらしいわ」
「そんなに気力使うの、オペラを観たら」
「何でもワーグナーは特別らしくて」
しかもそのニーベルングの指環ならというのだ。
「ニーベルングの指環は四部作だから」
「四日かけて聴くものなの?」
「二日目の後と三日目の後に一日ずつ開けてね」
「合わせて六日ね」
「それだけ時間をかけて聴くものなの」
本来はそうだというのだ。
「間違っても一日で聴くものじゃないのよ」
「それを一日で一気に聴いたからなの」
「気力が尽きて夏風邪ひいてね」
二日休んでいたというのだ。
「そうなったのよ」
「ううん、無茶だったのね」
「かなりね。正直言ってお母さんは琴乃ちゃんにそうした極端なことは勧めないから」
「普通の作品を普通に読んでなの」
「それで書いてね。自分のお部屋で」
「わかったわ、それじゃあね」
琴乃は母の言葉に頷いた、そしてだった。
母に言われた通り自分の部屋に入ってそのうえで谷崎の小説を読みそれから書いた。その次の日にだった。
部活がはじまる前に琴乃は里香にその本を笑顔で返した、そのうえでこう言った。
「有り難う、これでね」
「書けたのね」
「全部ね、書けたわ」
満足している笑顔での言葉だ。
「これで安心して始業式を迎えられるわ」
「そうなのね」
「ええ、それにしても美食倶楽部って」
「不思議な作品でしょ」
「夢か現実かわからない感じね」
そうした趣きがあるというのだ、美食倶楽部には。
「そんな感じよ」
「そうでしょ、その作品はね」
「夢と現実が
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