第6話 「ささやかな祝杯」
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案はできたか?」
皇太子殿下がそう、お声を掛けられますと、中佐はその場で、片膝をつきました。
「申し訳ありません。いまだ、良い案ができておりません。無能非才の身。皇太子殿下のご期待に添えませんでした。如何なる処分をお受けしても、お恨み申しません」
声が震えています。
リヒテンラーデ侯爵様たちは、顔を見合わせています。
ただ皇太子殿下のみ、中佐をまっすぐに見下ろしていました。
「本当にそうか? 良い案が浮かばぬのなら、浮かばぬで、私の状況を利用する事を考えただろう。遠慮はいらぬ。言ってみるがいい」
「殿下?」
ブラウンシュヴァイク公爵様が、おずおず口を開くのを、皇太子殿下は片手で制し、
「構わぬ。言え」
ともう一度、命じました。
「皇太子殿下は、帝国宰相閣下に就任されるさい、帝国の有り様を一新されると仰られました。劣悪遺伝子排除法は、旧来の帝国を象徴するものとして、まずはこれを廃す……。ここからが始まりである」
血の滲むような声というのは、こういうものを言うのでしょうか?
部屋の片隅で聞いていた私ですら、身が震えてしまいます。
「良かろう。卿の具申を聞き入れよう」
皇太子殿下が勢いよく立ち上がりました。
こういう時の皇太子殿下は頼もしいです。行動が早いのです。
「国務尚書。黒真珠の間に貴族、百官を集めよ。陛下にも臨席を願う。全宇宙に勅命を発する」
「はっ」
さすがにリヒテンラーデ侯爵様は、殿下の事をよく知っているらしく、あっさりと行動に移りましたが、他のお二方はおろおろとされています。
これぐらいでおろおろされていますと、皇太子殿下に付き合っていられませんよ。
私の方が心配になってきます。
■ノイエ・サンスーシ 黒真珠の間 リヒテンラーデ候クラウス■
帝国宰相就任いらい、さほどの間を置かずに、貴族や百官が再び集められた。
特別に許可されたスタッフ達が忙しそうに、カメラを備え付けている。
これから皇太子殿下が勅命を発するのだ。
如何なる内容なのかと、戦々恐々な貴族達の顔色ときては、おぬしらそれほど、怯えるようなまずい事をしておるのかと、問いたくなる。
見よ。皇帝陛下の余裕を。
ワルキューレは汝の勇気を愛す。伴奏が流れ出すのと同時に、皇太子殿下が玉座の前に立たれた。
そして陛下に一礼をし、我らの方に向き直る。
「勅命である。
銀河帝国第三六代皇帝フリードリヒ四世の名において、これを下す。
劣悪遺伝子排除法は、旧来の帝国を象徴するものとして、これを廃すものとする。
銀河帝国第三六代皇帝フリードリヒ四世。
よいか、皆の者。ここからが始まりである。
これから帝国を改革してゆく。
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