暁 〜小説投稿サイト〜
『ピース』
『ピース』
[10/27]

[1] [9] 最後 最初
社会でやっていけるのですよ」と語りかけている。遠い日に人が生み出した「数字」が黒板に羅列されていく。今の僕はそんなもの渡されてもどこにも行ける気がしない。むしろ僕が学びたいのは「数字」を最初に発見した人間の喜びの声はどんなものだったのかだと、かりそめに思う。大昔、火を手に入れた人間のように興奮したのだろうか? 数学が一番新しかった時代。それは見てみたい。
勉強というものは不思議だ。罪を洗い流してくれるような働きがある。幾分、責任放棄の匂いを放っている。僕はそれが不満である。あの悪い奴が「頭が良い」というだけで何らかの、背負わなければならない不幸から逃れている、ということに腹を立てている。それと同時に、勉強を「お経」のように叩き込むことで、心が平穏を得ることも高校受験の猛勉強で知った。
 地方の進学校で一握りの全国区の優等生。彼らは文字の読めない僕を尻目にコツコツと難解な文字列を吸い込んでゆく。彼らの中でそれは真実になり、つまりは世の中の真実になる。彼らは少数派なのに何故だか多数派の雰囲気を醸し出す。人間は数が多ければ良いのではなく、その中に何を蓄えているかで重みを増すことが出来る。僕の心、息苦しい。彼らは沢山空気を吸う。勉強だけじゃ何にもなれないんだぜ? 正論。しかしながらこの胸苦しさ。
頑張る前はその苦しみを知らないから人はヒマワリの様に咲く。放埓な夢を見る。学校。混沌の中、失うものは多い。人は知らぬ間にヒマワリから揺れて消えそうな星の瞬きになる。「強く愛されるはず」と思っていたパーソナリティは自虐や諦めで輝き方を変えてゆく。その過程でうち捨てられる夢はいかばかりか。
僕の夢、誰か拾いましたか?
肩が触れるほど人を世界に詰め込んでも、景色はだだっ広い。鎖から放たれればどこにでも行けるというような楽観は、同時にここに留まる事を意味しているかも。鎖につながれているからこそ、人間は明日を求めるのだし、第一僕は何につながれているのだろうか? 鼻にツンと来る希望は、知らずに溜め込んだ負の記憶により悲哀を含んで足踏みをさせる。まろやかな空気で自由を与えられた午後の僕は、それと引き換えに不幸を甘んじて受けなければならない罪人。風の無い世界でゆるりと堕ちてゆく綿のよう。「ここに留まる?」ここはとはどこなのか、僕にはわかりません。
「どうした。格好良い男と付き合えなくて恥ずかしいか」そんな言葉が頭に浮かんだ。その言葉は僕のいる場所を指している。スイィと吸い込んだ空気に憂いを含ませてため息。喫煙者の吐き息を思い出している。まだ僕は腐臭などしないはずだ。僕はじっと教科書の文字を見つめた。

「俺はAV男優一美しいと言われた男だぞ!」町君が寝言を言った。教室は笑い声に包まれている。この前の寝言は「マグネシウムに決まっているだろ」次世代エネルギーの話だ。その前は「今
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ