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『ピース』
『ピース』
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く。パシリである。『彼』は自分のセンスでみんなの昼食を選ばなければならない。そのセンスを笑うのが『彼』を取り巻く人々の日々の喜びである。
「屁こいたの? 毎朝、浣腸すれば?」と、僕が言う。
「ううん」と、町君は返事している。
「溜まると癌になるぜ。俺も旅行の時出なくなるから、持ってくよ」
 振り向いて教室を眺めると、戸下さんがまどろむ様に友達を見つめている。幸せな生活が彼女の前に広がっていないことを望むよ。この女のせいで町君は、前庭で一人、昼休みを過ごすことになった。町君はそこで今、パンをかじっている。ある日、町君と目が合った彼女は、お化けでも見た時のように「ひやぁ」と、声を上げて友達のところに駆け寄ったのである。そこで耳打ちしていた言葉は分らなかったけど、その後、町君のことを侮蔑するような噂が広まっていった。町君も町君で、それ以来、彼女と頻繁に目を合わせるようになった。その度に彼女は顔をゆがめて、友達と秘密を話し合うように顔を寄せて笑った。僕は「見なけりゃいいじゃん」と、忠告したけど、町君は「無意識なんだ」と、答えていた。
僕の知っている噂がある。「この札幌に住む、ある人物が、超能力を使って人を犯す」という噂だった。その人物に好かれると、不幸に見舞われるという噂。実際、僕はその人物に出会ったことはないが、目が合うと体中に悪寒が走るほど醜い意識の持ち主なのだという。第三の目を使って人に話しかけるらしい。その声が気味悪く背筋を凍らせるのだとか。強い意思を持って、その声に逆らわなければ、一生まがまがしい声に獲り憑かれてしまうから、その声を聞いた人は走ってその男から逃げなければならないらしい。その人物は自分の能力で世界の支配を目論むほど愚かで、間抜けな顔をしているという。その男、童貞で、あふれ出す醜い性欲は、想像力とあいまって、強い腐臭にも似た、心を歪める力を発しているという。そして、その人物は、僕らの高校の先輩らしい。
 彼女から広まった噂は、町君がその人物に似ていると言うものだった。戸下さんはその男に会った事があるのだろうか? そして彼女はその男に好かれたのだろうか? 彼女、可愛いのだ。
「頭のほうはどう?」と、町君が訊いた。読字障害のことを言っている。
僕は「脳みそ、プリンみたいだ」と、言おうと思って、
「ミルクを入れすぎたコーヒーみたいなもんだ」と言った。
「うん。それ、どういう意味?」
「いや、コーヒーフィルターみたいになってる」
「うん。で、それどういう意味?」
「いらないもの、全部、俺の中みたいなこと」と、僕は答えた。「カスとか雑味とかな」
 僕の頭は文字を読みにくい代わりに、インスピレーションが働くようになっている。町君にとって少し面白いようだった。しかしながら、僕にとって今日のそれは、意識の混濁の結果で、誰かが僕の意識
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