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『ピース』
『ピース』
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ったことに惹かれたんだとか。彼女はかるい私立高校に通っているらしい。
「愛とは自分より深きものに感謝するものなり」
「それ何?」と僕は訊いた。
「彼女の教え」
「キリスト教とか?」
「念を通す」
 僕は何も思いつかなかったから黙っていた。
「他人の意識を神として、そこに念を突き通せば、己の魂の真の味つまびらかになり、放埓な夢消え去るだろう」
「何のこと?」僕のストライクゾーンを外した話だ。
「それが、『する』ってこと」町君は熱い息を吐いた。
「教えだからしたの?」
「違うよ。多分違う」
町君は窓の外を見ている。そこにはヤンキーはもういなくなっている。彼らは彼らで何か荷物を背負ってどこかに行くのだろう。
「俺のこと『愛の税』って言うんだ」
「また、とっぴな事言うね」
「俺が今、学校で少し損してるだろ? そのことつぶやいたら、食いついてきて、それは『愛の税』だよって言うんだ」
 その話はこういう内容だった。人間生まれながらに愛の量が不平等に割り当てられている。愛を多く持つ人間は、自らの魂を持って愛少なき人を喜ばせなければならない。愛を多く持つものは苦しい人生を送りながら自分を信じ続けなければならない。最後、自分の器量で幸せに出来る最大人数の心を満たした時、神は汝に幸せを与えるだろう。なかなか苦しい話だ。
「それ、信じてるの?」
「宗教には入らないよ」町君が薄く笑っている。
 大きなおっぱいは幸せの象徴なのに、何故だか色があせている。それは、男がいつも勃起してはいない事と同じことなのかもしれない。
 帰りの道、風は冷たく心を冷やす。しかしながらの清々しさ。童貞であることを認識する。
「現実は向こうからやってくるもんだなぁ」
 冷や汗をかきながら読字傷害と戦う事。世界から逃避行するように、不意に現れるインスピレーション。現実にそぐわない性欲。いつかこれらが上手くかみ合って、人並みの幸せを手に入れることが出来るのだろうか。
「本当の安寧というのは、満足によりもたらされるものではない。たいていの満足とは、醜さをはらんでいるからである」
 そういえば、そんなことを思いついたのだ。「満足が醜さをはらんでいる?」諦めろというメッセージかな。
僕は町君の顔を思い出している。仲の良い僕は見慣れているけど、みんなにはどう映っているのだろう。その顔に勝者の光を見出せるだろうか。少なくとも僕にはそう見えなかった。人に先んじたという自負も見えなかった。それは内側にそっと秘められ、だれも傷つけてなんかいない。「その満足は醜さをはらんでいない、稀有な物だった」と言いたいな。写真の彼女、少し胸が小さいけど、鎖骨が綺麗な大人の女の体だった。僕はなぜ、町君がすでに経験したという事に驚いたのだろう。友達として恥ずかしいじゃないか。
 夜の闇に差し込
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