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『ピース』
『ピース』
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えるまろやかなコーヒー。冷凍庫にあるその粉はまだ新鮮だろうか。それは湯をかけると丸く膨らむ。湖底から湧き出る泡粒みたいに。

世界の上の方。アメンボが水面を揺らす。それは大事な使命を帯びていて、感じやすい人々にイメージを与える。それをバカな妄想と笑うもの、神の啓示と胸に刻むもの。
風は気ままに吹いているようで、それは渦を巻く。台風は生まれ続け、その目に入って晴天と喜ぶもの、荒れる世界を楽しむもの。

 治りそうもないその根を深く張るニキビは、ここから遠いドアを開けて日の差す窓から顔を出すか出さないかのところで立ちすくみ光に照らされている。繊細な心と諦観をはらんだその顔に、いつか観た映画俳優のナイフの傷より醜く刻まれる紫色。
素敵な男にまたがって、膨らんでゆく女の幾人かが、縮みやすいナマコみたいな少年を薄ら笑いで見ている。世の中のふくらみが限度を知るならば、いつか女はしぼみ、少年は膨らむはずだ。
畏れから生まれた堅い美意識が、深みを嫌って水面に漂い、湖面を旅する人々にかりそめの平和を与えている。それは眉頭と目頭、鼻梁を強く集めて『勝ちました』と宣言し、顔を世界に突き出す。
善なのか悪なのか判らない濃い色をした声。強く人を惹きつけ、『嘘でもいいから』と、魂の拠り所となる。嘘に飲み込まれた人は天に唾を吐き、己の体の嘘の部分を秘部に隠した。
 外見が心の内を飾ることへのアンチテーゼ。心の内に美しい言葉が浮かぶことを得意とする傲慢さ。すべてを包括するような優しさの罪。自然な心を売り物としても、風に吹かれて吹き溜まり。

噴水が吹き上がれば、歓声が沸く。それには力が必要なのだ。

 携帯が鳴り、メールが届いた。僕は浅く眠っていたらしい。町君だ。
「巨乳発見!」行かねばならない。「いつものところね。待ってる」ハンバーガーのチェーン店。新しい子が入ったのかな? 頭が深々と痛んだ。夜が浅いせいだ。
 僕が階段を降りると、父さんが厳しい顔で立っていた。
「おい、問題は解決しようと立ち上がった時、すでに解決されているものだ」
「何言ってるの?」と僕は返して飛び出し、ガレージの自転車まで走った。目の前には無邪気にもオッパイが見えている。
 夕暮れは惜しげもなく西に消え、僕は湿度のある冷えた空気を鼻先で切る。町君まで十分。つぶれたガススタンドがさみしく右に見えて、母さんの存在に震える。そのスタンドで母さんとガスを入れて塾に向かう中学生の僕。今より膨らんでいた僕は怖くなかったな。その膨らみは今ではどこかに吸い込まれて、何かを大きく膨らませている。フランチャイズのラーメン店を左に坂を下る。そこの匂いは動物の物。もうちょっと進化しないと消えちまうぜ。道端に止めてあるポルシェから大きな声が聴こえてきた。
「欲しいもの、全部欲しいだろうが! 何がいけない!
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