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『ピース』
『ピース』
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の事。手を差し伸べ、奪ってゆく。僕の足はすぐそこにある大型書店に向かった。
僕は平積みになった本のページをぱらぱらめくり、気まぐれに拾い読みする。文章をよく理解できないから、本は買わない。麻痺した頭に、奇跡的に吸い込まれるセンテンスを探す。手に汗を、脇に汗をかきながら、障害に抗う。二階の専門書に手を伸ばす。「乾きかけたタオルを絞るような真似はしたくない。熟れた柑橘類のように意欲をあふれさせて歩いた時代だった」
タイトルは『僕の知っている権力闘争』
「スーツの黒人よ、母なる故郷を覚えているか。今もそこでは兄弟が飢えているぞ」
「タバコを小道具にする時代は終わったのだ。それはかつて紫外線が魅力的であったように」
「すべてが分らないから優しい嘘つきにだまされるのだ」
「かつて僕の愛したものは学問のように刺々しい人々の手に渡って、今は触れることすら出来ない。そして平然として街を歩いている」
僕の意識は鉛のようになる。これらの言葉をしみこませて、表紙についた汗を拭って棚に戻した。「石油だってこんなに形を変える。人間の心はもっと変わる」そんな言葉を浮かべてみた。これが僕のルーティンワーク。

 札幌駅から大通りまで、地下歩行空間というものが出来た。単純に地下道。そこは綺麗な空間でほとんど商売をやっていない。歩くことに集中できる。これが出来たのは、震災の直後だった。だから僕はこの地下道に思い出がある。地元のサッカーチームの有名選手が、募金活動していたのだ。僕は高校生の身でありながら、三千円を募金した。お金はあるのよ。でも高校生は五千円も出さないのよ。僕は経験的に知っている。有名人に近づくと僕の頭は白く混乱すること。だから彼らを見つけたとき、まだ遠いうちに財布を手に取り、三千円をヒラヒラさせてそこまで行った。白い混乱の中じゃ、万札を間違って入れかねない。それから数日後、競輪選手が募金活動をしていた。そのときは募金しなかった。何故か金の匂いがきつすぎて。
 遠くで苦しんでいる人に同情できる人はすごい。この頃のラジオから流れる歌は『みんなつながっているんだ』って歌っている。でも共感できない。
僕の手は短いゆえ。
獣の前にステーキを置いてむさぼる姿を眺める人々。平和。でもいつだって人はステーキになる。精神的にむさぼられ、おいしいステーキになる。何かのはずみでイジメにあうように。『彼』『町君』
 僕の手は短く、力が弱いゆえ。自らの体を抱きしめて己の温かさに喜ぶぐらいしか出来ないのです。募金しているみんな。そんなに腕長いのですか? 自己満足なのですか? 僕が知りたいのは心のことなんだけどな。お金を出す時に勘定をして、手元からお金がすり落ちてゆく時の心。背中越しに遠ざかるお金に、「出しすぎちまった」と後悔する心。人のためになったと自尊を肥やす心。そこに人の顔が
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