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『ピース』
『ピース』
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に座った女に念で『俺のチンポしゃぶらねが』って、念送るらしいっスよ」辟易と怒り交じりで勝島君が言う。
「ねぇ、それ。町が似てるって言われた奴?」
「なに?」
「いや、町君がさ、へんな奴に似てるって影で言われてるんだけどさ…」
「それ」勝島君が簡潔に答えた。「そいつ以外いないよ」
 遠くで咳払いが聞こえた。先生が採点を終えたようだった。先生は手招きで僕らを呼んだ。点数は、僕「七十八点」勝島君「七十六点」
「時間というのは、限られているものであります。人生に負荷がかかっている時が、一番重要な時間であります。それを逃れて成長しても意味を成さないということがあります。他者と一緒に走れないと思うなら、人生を諦めなければなりません。それだけが人生ではありませんが、学校にいる間は皆と一緒に走りなさい。あなたたちは少しゆるいですよ。以上」そう言って先生は教室を出て行った。

 ちょっとした興奮の後の静けさは、僕を正気にさせる。多分イジメっ子達はこの静寂、感じているだろうな。
勝島君は白球を追いに行く。先生は生徒の知らないところに行く。僕は世界を眺めている。世界の中心には恋人がいる。二人はたわ言を言い合いながらお互いの心を愛撫する。体の末端まで生気に満ち溢れる。戸下さんが隣の教室にいた。彼女は隣の教室で乳繰り合ってた。僕らが追試を受けていた時に。相手は背の高い、バスケ部を引退した男子。膝を悪くしたそうだ。彼はちょっと跳んだだけでバスケのリングから手首が出るらしい。ちょっと優れている男子の、この年で武勇伝を語る可愛さは、彼女の目をくらませるのだろうか。僕は聞いてて恥ずかしい。中学の時「選抜選手」だったんだね。僕にはそこが行き止まりに見えるけど。何せ相手が「棘さん」だからさ。
 玄関から体育館の様子が見えた。バレーボール部が跳ねている。床を蹴り、舞い上がる彼らは誰よりも高みに届こうと思うのだろうか。もしかするとそうでもなく、白い球という責任を転嫁し続けているだけかもしれない。僕は思う、彼らは高い圧力の中で生まれた湖底の泡粒。膨らみながら水面を目指す。平和を声高に叫ぶ貧しい人々。その姿がおぼろげに、しかしエネルギッシュに意識に浮かんだ。僕はおびえる。足に来る。高いところが怖くてしょうがない。そこには平和ありますか。湖の上ではじける泡粒。こんな考えだからスポーツに嫌われちまうはずだ。靴を履き替えた後振り返ると、彼らはあらゆる現実のしがらみを払拭するように空に舞い上がっていた。

 札幌駅前の家電量販店にいると物欲が心をくすぐる。母さんが居なくなって、仕送りが三十万。父さんと男二人暮らしは金が余る。「大きな買い物する時はこのカードを使って」と渡されたクレジットカードはまだ一度も使っていない。お金の使い道は母さんに知られたくないから。時計売り場に足を止めて、じっと
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