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『ピース』
『ピース』
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日は疲れているから巨乳がいいや」だった。この町君の寝言のおかげで教室は親しさを共有する。イジメられっこの『彼』も笑っている。素晴らしいな、町君。しかし、その昔「醜い男が正しさを持っているのは可笑しいかな」と寝言を言った。そのときは空気が引き締まった。

やわらかい所、弱い所は悪辣な人間の心を熱くする。それを持つ良き人間は、瞬く間に血を奪われ蒼白な青春を送ることになる。
心のひだをそのままに、やわらかく保って過ごすには愛がいる。それは草原のススキを風に揺らす、人々の目には見えない神の吐息。人々は良き人間の吹かすその風を思う存分楽しんでいる。そして一部の悪辣な人間達は、自らの心の動くさまを良心と取り違えている。

僕は教室の隅っこにいる女子を見る。ショートヘアーの彼女は教室に吹く風をなんと捉えているだろうか。彼女は町君に好意を持っている。胸が痛いな。

 彼女は「頑張ってくださいね」と言って教室を出て行った。彼女は大きいガラス球のような瞳をしていて、肌は浅黒く、東南アジアの少女のようです。彼女は僕が唯一話すことの出来る女子で、きっかけは町君のことだった。彼女は密かにというでもなく町君のことを気にかけ、その友人の僕にも話しかけることが出来る。話すといっても挨拶や激励だ。その声は抑え気味で、何かと戦う人の心持を伝えている。彼女の後ろ姿を見ていると本当に色々な人間がいるのだと思える。淫らなことを思わせない貞操感。走り出すと速い、性能の良い自転車のような体つき。色々な人間がいるというのは、彼女の輪郭がいかにも凛として、他者と明確な境目を持っているからだ。彼女の周りの空気は、彼女の意思と同じ匂いがする。
 追試を受ける僕は、教室で勝島君と二人になった。勝島君は日に焼けた坊主頭。目の細い野球部。
教室には爽やかな風が吹いている。それまであった人いきれ、声が運ぶ意識の内側に入り込むようなその肉感、様々な威力を持った視線の数々。そんなものが消えうせ、今は静かな湖畔。遠く響く壊れたバイオリンにも似た笑い声はカモメの鳴き声。『彼』は今日の苦役を終えて家路につく。今日は金曜日。週末は安息。
追試は本試験と同じような問題だから、復習していればまず引っかかることは無い。密度の薄くなった教室は空気が幾分濃くなった気がする。
僕と勝島君、積極的に仲は良いとはいえない。二人きりになると薄いガラスのような隔たりがあった。
 英文法の先生が入ってきた。
「二人、離れて座ってね。どこでもいいよ」
 勝島君は前の方、教壇のすぐそばに座り、僕は廊下側の真ん中辺りに座った。僕の席は廊下からのぞけない所だ。まだプライドがあるのかな。先生は問題をふせて僕らに渡した。時計をチラチラと見ている。窓を端から閉めていって、外の声を聴こえにくくした。黒板に数字を書いた。試験終了時間。僕は、そ
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