第5章 契約
第72話 廃墟の聖堂
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事は間違いなかった。
刹那。外界にて、轟と風が舞う。
同時に立って居られないほどの物理的な圧力にまで高まった魔力を全身に感じる。
そう。これは明らかに巨大な呪力。身体を包む精霊の護りと、この土地……元ブリミル教の聖地にして、今は何モノか判らない相手が支配する呪力が反発し合い、荒れ狂っていたのだ。
そして――――
ひたひた、ひたひた……。
聞こえるはずのない素足で石畳を歩く足音。
外は嵐。風が荒れ狂い、波が白く弾ける。
ひたひた、ひたひた……。
しかし、聞こえる足音。いや、同時に聞こえて来る水の滴り落ちる音と――
向こう側から響くフルートの単調な音色。
振り返る俺。その視線の先。
完全に焼け落ち、二度と閉じられる事の無くなった、かつては重い木製の扉が有った場所から眺められる石畳の道をひたひたと。ひたひたと進み来る数人の少女たち。
その表情はすべて夢見る者のそれ。足取りも覚束なく、ただ夢遊病の如く身体を揺らし、こちらへと近付いて来る。
すべてが夜着姿。薄いヴェールの如きそれから、麻や綿を思わせるそれ。このハルケギニア世界では中世ヨーロッパと違い夜着を着て就寝する、と言うスタイルがかなり浸透しているようなので、夢遊病の少女たちと遭遇したと考えても絶対に有り得ない話ではない。
但し、すべての少女たちが全身を水で濡らし、髪から水……おそらく、海水を滴り落として居なければ。
そして、彼女たちのゆっくりとした歩みに重なる単調なフルートの音色。
覚醒している俺の耳にも届き、眠りへの抗い難い誘惑を奏で続けるフルートの音色が、この夢遊病の如き少女たちを操っていると判断しても問題はない。
しかし、どうする?
彼女たちの様子から考えると、彼女たちはマルセイユの街より何モノかに操られて、このイフ島の湖の修道院跡にまで連れて来られた人間。
つまり三キロもの距離を、海を渡って来ても正気に返っていない以上、少々のショックを与えたトコロで効果が有るとは考えられない。
僅かな逡巡の後の判断は一瞬。
交わされる視線と視線。微かに首肯く仕草まで同じ。
次の刹那。俺の手の中に現れる愛用の笛。そして、同じくタバサの手の中にも俺の愛用の笛と寸分違わぬ笛が現れていた。
そうそれは、龍種専用宝貝の如意宝珠『護』と、その如意宝珠をその他の仙人でも扱えるように調整された宝珠『希』によって再現された笛。
精神を整え、愛用の笛にくちびるを当てる俺とタバサ。
その瞬間。紅蒼ふたつの月と北風。そして単調なフルートの音階に支配された世界に、新たに哀調を帯びたメロディと言う要素が加えられた。
そう。たおやかで優美。高と低。強と弱。ふたつの異なった笛が創り上げる独特の世界観
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