第5章 契約
第72話 廃墟の聖堂
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風速にして四十メートルは有ろうかと言う北風が巻き起こす巨大な波。
白波が弾ける嵐の真っただ中、四方を切り立った断崖に守られたその小島は雄々しくその存在を誇示している。
そう。何か言い様のない存在感を放つ小島。眼下に存在して居たのは、そんな、奇妙な感覚をもたらせる島で有った。
もっとも、この感覚は俺自身がこの島。地球世界のこのイフ島の由来……マルセイユの街を護る為に要塞化された、だとか、主に政治犯を収容する為の監獄として利用された島だとか言う由来を知って居て、更に、その由来に相応しい周囲を切り立った崖に覆われている自然の要害と言う趣をこちらに向けて見せて居るから、そう感じて居るだけなのでしょうが。
その瞬間、一際大きな風が周囲に吹き荒れ、今まで以上に大きな波が、高さにして二十メートルは有ろうかと言う断崖の上部にまで波を打ちつけた。
「このイフ島には、かつて湖の修道院と言う修道院が存在していたのですが、三年前の十月、 第四週、ダエグの曜日に、周辺を荒らしまわっていた海賊に襲われ、修道院は焼け落ち、其処に居た修道女たちはすべて殺されるか、何処かに連れ去られたそうです」
遙か上空から地上を見下ろし、そう説明を行う妖精女王ティターニア。
そう言えば、確か地球世界に存在するイフ島に有った修道院も、十六世紀にオスマン帝国の海賊の襲撃を受けて壊滅したはずでしたか。
「ただ……」
そう淡々と事実のみを告げていたティターニアが、その時、僅かにその美貌を曇らせた。
そして続けて、
「その年以来、この十月最後のダエグの夜に、二年連続でマルセイユの街から少女が数人消えて居ます」
……と、不穏当極まりない台詞を口にしたのでした。
それまで簡単に、と言う訳では有りませんが、一応、俺の知って居る地球世界の歴史にシンクロする形で話が推移して居た為に、そんなに強く意識を向けていた訳ではなかったのですが……。
確かにそれが事実なら、そんな事件が存在する事を知って仕舞った以上、何らかの処置を行う必要が有るでしょう。それが仙人と言う物ですから。
これが人知を超えたトコロで発生している事件ならば特に……。
但し、
「子供が消えるのは確かに問題が有る状況かも知れないけど、それは、一年を通じて何時の時期でも起きて居るはず。この島で起きた悲劇と、その少女たちが消えると言う事件を同じ目線で考えるのは問題が有ると思うけどな」
東洋人を思わせるティターニアを名乗る少女の、やや愁いに沈む横顔を見つめながらそう問い掛けた後、彼女の視線の先。……荒れ狂う水に削られつつある島に視線を移す俺。
上空から見る限りでは切り立った断崖。最低でも二十メートルは有るかと
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