犠牲よりも大きいもの
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ないかね?」
「ならば、何でもないなどといわずに、最初からそう言えばいいのです」
冷淡にそう返されれば、シトレは苦笑する他なく、音を立てずに扉を閉めた。
ゆっくりと離れれば、スレイヤーもシトレの後に続く。
「強くなるな」
「ええ。彼の欠点は戦術思考にこだわるという点もありましたが、何よりもその欠点に対して正面から向かわないという点にありました。一度の負けが――それも得意としていた戦術的敗北が、彼を大きくしたようですが」
「どこか浮かない顔をしているな」
「何でもありません」
「おいおい。学校長――上官に対して嘘は良くないぞ。顔を見ればわかる」
「それを理解させたというのが、上官でも同期でもなく、後輩だと言うのがね」
「アレス・マクワイルド候補生か。天才という奴なのかね」
感心したように顎を撫でたシトレに、スレイヤーは首を振った。
「士官学校以来の天才、百年に一度の天才。そんな天才は自称他称を問わず、どこにでもいます。大体において天才ではなく、天災になりかねないのですが」
「相変わらず酷い事をいうな、君は」
「そもそも戦術や戦略などは閃きが左右しますから。天才と呼ばれるのも良いでしょう。若くして才能がなかったものがいなかったわけでもない。しかし、学校長は十六の時には何をされてましたか?」
「唐突だな。そうだな、士官学校だから、真面目に勉学をし――そして、たまには抜け出して夜の街を楽しんだものだ、はっは」
「私は戦っておりました」
スレイヤーの言葉に、シトレは口を開けたままで固まった。
ゆっくりと顎を戻しながら、困ったように頭をかき、
「そいつは、そのすまん」
「謝られることではありません。確か十六ですとまだまだ見習い新兵で、上の言葉に従いながら、敵艦に照準を合わせてましたな。戦闘ではよく漏らしてました、大きい方ではなかったのが幸いでしたが」
笑うところなのかとシトレがスレイヤーを見れば、白髪の男は変わらぬ冷淡な瞳をシトレに向けている。
「凄いことに聞こえるかもしれませんが、私の場合は――まあ、一兵卒の場合は、それが当然だったのです。やれと言われた事をやり、たまには悪い事ですが酒を飲んで発散させる。それが、十六歳でしょう。そんな十六歳の天才が、ワイドボーンを倒す。それくらいなら不思議なことでもありません。ただ、私が十六歳の頃には自分が何をやるべきかなど、考えたことはありませんでしたね」
「早熟過ぎるといいたいのかな」
「冷酷なほどにね。おそらく、彼はワイドボーンが戻らないことも考えたと思います」
「戻らないとは?」
「あのままワイドボーンが戦場に出れば、それなりに出世はしたでしょう。凡人ではとても勝てない――しかし、凡人ばかりが戦場に出るわけでもありません。いつか、彼以上の天
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