犠牲よりも大きいもの
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なくなる。
しかし、時間は有限であり、戦術シミュレーターの大会までは一カ月を切っている。
後方で本を片手にしながら、アレスは小さくため息を吐いた。
ま、このままワイドボーンがショックで辞めれば無能な指揮で死ぬ人間が少なくなると喜べばいいのか。ただ……彼の才能は正直もったいない。
ただでさえ、原作の都合上か有能な指揮官が次々と死ぬ中で無能といわれたままに終わったワイドボーンの実力は、今後必要であろう。
そもそも原作ではあの様であったが、学生時代はヤンやラップを抜いて学年主席におさまったのだ。十年来の天才とまで呼ばれた彼の戦術指揮はずば抜けていると言っても良い。ただ、そこで挫折を経験しなかっただけ――。
この挫折が良い方向に転がるか。
それとも逃げだすのか。はたまた……少し考えてアレスが本を畳んだ時、叩きつけられるような勢いで扉が開いた。
開いた先に、集中する視線。
高い身長と太い眉が、集中した視線を無視してただ一人、アレスを睨んでいた。
小さく緊張が広がる中で、ローバイクが腰を僅かに浮かせた。
一週間前といい。随分とローバイクは苦労症のようだ。
「…………」
「…………」
誰も言葉もなく佇む中で、ワイドボーンはじっとアレスに視線を向ける。
小さくアレスが首を曲げた。
その様子にワイドボーンが唇を僅かに曲げ、指で席を差した。
「何をそんなところで休んでいる。さぁ、会議を始めるぞ。後輩」
「誰も始めようとしなかったので。随分と待ちましたよ、先輩」
「人生で初めて負けたのだ。心を癒す時間に、一週間は短い方だろう?」
「そうですね……」
言葉に、アレスはゆっくりと笑った。
+ + +
「何をしているのです?」
小会議室を覗き込むシトレの姿に、冷静な相貌が突き刺さった。
「な、な。何でもない……ぞ?」
「どう見ても盗撮か覗きをしているようにしかみれませんが?」
「酷いな。こうして学生を見守るのも学校長としての……」
「学生を覗いている暇があったら、事務を片づけるのですね」
「相変わらず厳しいな、スレイヤー教頭。だが、君だってなぜこの場にいるのかね?」
「私は落ち込んでいる生徒に対して、年長からのアドバイスをあげようと思ったのですが……どうやら、その必要はないようですね」
小さく開いた扉。何事もなかったかのようにワイドボーンがモニターを表示して、先の戦いの評価を語っている。それに対し、アレスも口を出し、少しずつであるが周囲も戦いについて話し始めていた。アレスの補給面での発言にも、もはやワイドボーンは無用との一言で話を終わらせる事はなくなった。有用性を考え、周囲の意見も少しずつであるが考えるようになっている。
「君だって気にしていたのに、盗撮とは酷く
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