犠牲よりも大きいもの
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学年の勝ちだろう」
「中央艦隊を犠牲にしてか。こんなこと現実にやれば、後ろから撃たれるね」
アレスの行動は冷酷なほどに中央艦隊を犠牲にしている。
ワイドボーンの艦隊運動、さらにその攻撃すらも気づかされずに包囲陣形の中に包み込んだアレスの艦隊運動は誰が見ても優れている――しかし、それは中央艦隊五千隻の犠牲があってのことだった。
それも犠牲が出て考えついたことではない。
最初から中央艦隊の犠牲の上で成り立った作戦行動であった。
アッテンボローが、そして一部の人間が無様と評した理由である。
戦術的には有効であるかもしれないが、戦略的には無意味である。
もし、最初から犠牲になると言われれば犠牲になる人間は機械のように動けないだろう。これはあくまでシミュレーターであったから、成り立った作戦である。
だが、そこまで気づくものは少ないのだろう。
多くがワイドボーン艦隊の初撃から中央突破への連携を褒め、アレスの包囲陣形を褒めている。
――第一、包囲が完了した時点で降伏勧告するのが普通だろう。
損傷率が五十を超えるとは、例え相手に勝っていても負けているも同じだ。
数にして七千五百以上、人間にすれば何十万もの人間が死ぬのだから。
「それだけとは思えないけどね」
小さく置かれたコーヒーカップに、アッテンボローが顔をあげた。
そこに最上級生のマフラーを確認して、慌てたように立ち上がって敬礼する。
手で納めながら、最初にコーヒーを運んだ上級生が席に座り、周囲も席に座った。
勧められたコーヒーを手にして、アッテンボローは口を開いた。
「それだけとはってどういうことですか。ラップ先輩?」
「アッテンボロー候補生。あと他の人達もこの戦いの戦略的勝利とは何だろう」
「青軍ならば、星系の主要基地の破壊。赤軍ならその阻止でしょう」
「それは戦術シミュレーターでの戦略目標だね」
「いや、これは戦術シミュレーターでしょう」
「ただ一人――いや、二人かな。そう思わなかった人間もいたってことさ」
怪訝そうな視線が集中する中で、ラップはゆっくりとコーヒーを口に含んだ。
「ワイドボーンは公開して打ち砕くことで、後輩達の手綱を握り閉めようと考え――そして、その後輩はワイドボーンの考え方にNoを叩きつけたと、僕は思う」
怪訝そうな表情が集中する中で、人の良さそうな笑みを浮かべるジャン・ロベール・ラップはコーヒーをすすって、苦い顔をした。
ちょっと苦いなと呟いて、コーヒーを追加した。
そこでようやくラップの言葉が頭に入ったアッテンボローが驚いたように声を出した。
「ちょ、ちょっと待ってください。じゃ、この後輩の戦い方はわざとだっていうんですか?」
「僕はそう思うよ。ワイドボーンのことだから
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