暁 〜小説投稿サイト〜
林檎の恋愛物語。
〜毒林檎の場合。〜
V
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『好き』――と言おうと思ったの。あなたを一目見て、その心の真っ直ぐな所を知って、好きになったの。外見に惑わされず、優しい偽りに騙されなかったあなたの事を。もっともっと、知りたいと思ったの。

 人間であったのなら、顔が真っ赤であっただろう。青年は林檎に口づけたのだった。毒林檎の呪いは解けた――真の愛の口づけによって。

「腐った紅色をしていようと、澄んだ心を持った毒林檎、か。気に入ったよ」

 私のことをあなたは見てくれた。甘い香りも偽りの色もない、醜い私を見てくれた。
 真の姿をした私は、誰の手にも取られない。醜い色の私は誰からも愛されない。確かにそう思っていた。だけど、あなたは私にキスをくれた。毒林檎という、哀れな生を受けたこの体に。

「たとえこの身が醜かろうと、腐った紅色をしていようと、心は赤く燃えている。初めて誰かを好きになった、私の心」――真っ赤な毒林檎の告白。「私は、あなたの事が好きみたい。一目見た時から、あなたに食べられたいと思ったの。なんてね」
その姿は既に、毒林檎と言えるような容姿ではなかった。その、気高く清い心を反映したような、美しい女性の姿になっていた。






 そうして数日がたちました。晴れ渡る空の下。大きな湖の畔に、青年と美しい女性がおりました。青年は彼女に、世界の話をしてあげます。決して明るい話ばかりではありませんでしたが、その内容はどれも真実でした。今まで正しい心で、世界を見てきたのでしょう。
「それから僕には両親がいてね。いつも、『正しい心を持ちなさい』と育てられたんだ。そのことにはとっても感謝してるんだ」青年は彼女に自分の生い立ちについて語ります。
「……僕は恵まれていると思っただろ?」青年の表情は一変して曇ります。「それなのに僕は、家を飛び出したんだ。幼いとき悪戯をしたり、成長してからも間違った事をすれば酷く叱られた。そのたびに思ったんだ。僕はしたいことをしただけなのに、ってさ。だから、逃げ出した」
 正しい事ばかりを求めていると、この世は生きにくい――そう青年は言いたかったのでしょうか。しかし、そのことについてはこれ以上は語らずに、自分が旅をした時の話を彼女に話しました。彼女は彼の話のすべてを、とても幸せそうに聞きました。
「でも一番不思議なのは、君と出会ったこと。それからこうして君と一緒にいられることなんだ」少し照れくさそうに青年は言いました。「僕はその……このとおり地味だしさ。誰かに好きになって貰えたことなんて、今までなかったんだ。だから――」そうしてふたりは見つめ合い、感謝を込めたキスを交わしたのでした。

それから少し、時は流れて。口を動かしたのは、話したがりの――やはり彼の方でした。
「……両親の事なんだけどさ。さっきも言ったけど、家を出て好きなことが出来
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