〜毒林檎の場合。〜
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どうか、あなただけでも生きていて。これは私のわがままです』
しかしその言葉は、青年の耳には届かないのだろうか。否や、青年はその瞳から真の涙を流し始めた。毒林檎は突然のことに戸惑う。
「そうか。とても幸せそうな表情をしていたから気が付かなかった」――それが初めて聞いた、彼の言葉。純な瞳から真の涙を流した青年は、傍らの仲間に手を合わせた。そうしてそのあと林檎の方を見る。
「僕だけは貴女のおかげで助かったようだ。真実を話してくれてありがとう。その涙にも感謝する」
一瞬戸惑ったが、林檎はその言葉を受け取る。『あなたは何でもお見通しなのね。ただ、この涙には感謝しなくても結構よ。自分の愚かだったことへの後悔の涙だから――おかげであなたを殺さなくて済んだのだけれど』
自らを嘲笑うような毒林檎の言葉を、青年は涙を拭って笑った。「それは全くおかしな話だ。毒林檎のはずが、殺さなくて済んでよかったとは」青年が笑ったことになぜだか林檎は苛立っていた。『ええ、そうね! 自分でもそう思うわ――死にたくなければ出ておいき! 今すぐ! ここから――』しかし、林檎の警告は遮られる。青年は木の枝からその果実をもぎ取った。『な、何をする――』青年はてのひらの林檎をその口へ近づける。『おやめなさい、そんな事をすればあなたは死んでしまう! 私はあなたのことが――』しかし、青年によって時は止まった。
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