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『ステーキ』
さよなら
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。これ杉? 屋久杉?」
「それ、屋久杉だったら、切った人捕まるわ」
 大きな絨毯の上に、太い樹木を輪切りにした、大きなテーブルがあった。鎌口もデカも、そのリビングで一服していた。
「この絨毯、ペルシャ?」デカが言った。
鎌口は首を振っている。「前にさ、昔の話よ。このバッタもんで稼いだってよ」
それを女の人がぼうっと聞いている。「えっ? 不動産業じゃないの? 土地売買に失敗して、借金、作ったんじゃないの?」
リン君は「早く帰りたい」と胸の中でつぶやいていた。

 リン君は、軽トラックの荷台の幌の中に座って、立ち枯れの枝が折れないように抱えていた。家に帰って、『タグホイヤー』のオークションの値を、見てみよう。幌の中の薄闇の中にいると、自分が商品のような気分になってきた。あらゆる人間の手抜きを隠す、闇の中にいるような気になったのだ。
 鎌口とミナミさんが、トラックを降りて、体の大きな男に礼を言った。リン君が幌を開けて、「お疲れ様、ありがとうございます。お気をつけて」と言った。リン君は思う。デカには、「さようなら」と言おう。俺が、俺の中の黒が、あらわになる前に、「さようなら」最高に爽やかな「さようなら」を。

 鎌口は円山にある、マンションを訪ねた。女はツンとした顔で続いた。マンションの中には沢山のぬいぐるみが置いてあった。置いてあると言うより、部屋がそれで埋もれている。
「社長。いる?」鎌口が言った。
「来いよ」と、奥から声がした。
 三十台の、髪を細かくカールした男が座っていた。
「どっちなの? 一人なの? 二人ともなの?」
 鎌口は、稼がなきゃならない旨を伝えた。
「脱いでよ」と男が言った。
 スルスルとズボンを脱いだ鎌口の股間は、少々膨らみかけている。何せ、あの、増藻さんの女を抱けるのだ。
「マックスまでいって。どの位になる?」
 鎌口は、股間のモノを手でしごいている。
「12a……。挿入要員。取りあえず。フェラチオはさせないよ。あれは大きい奴しかやらせないから。大きいモノに、可愛い顔。これが受けるんだから」
 すべてが熱を帯び、叫び声を上げた。ミナミさんが、空っぽになる代わりに、彼女の目には、ありきたりの世界がキラキラした物に見えた。それには少し偏りがあったが、気にしなかった。その部屋の壁に大きな書が飾られてあった。

そなたの体で悦ぶ者あらば
差し上げなさい
その悦びの向こうに
真実の世界が広がっている
真実を前に
すべての人は黙るであろう

 数ヵ月後、彼女が普通の世界に戻ったとき、彼女の中にあるべき魂は、中国あたりをさまよっていた。その後、彼女は風邪をひいて死んでしまった。

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