さよなら
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る人いるだろ?」と、目のすわった鎌口が言う。「あれな、何だか医者に思うのよ。医者は人間の醜いところ調べるだろ? 調べて癌とか治すだろ? レントゲンとかで、『肺に影があります』なんて言ってな。その……醜い生き物を調べる学者ってのは、世界の医者よ。目に見えるこの世界の医者よ。何でこんなに醜く生まれちまったのか、世界に知らしめているのよ。まあ、それを治しはしないけどな。世の中キレイな事ばかりじゃないですよ、って。醜い者とも仲良くな、って言われてる気がするのよ」
リン君は、話しの中で『醜い生き物』と聞いた瞬間、鎌口さんは自分のことを醜いって思っている、と少し尊敬して、その後の話しぶりで、そうは思っていないのだ、気づいた。もしかすると、『醜い』のは鎌口さんを攻撃する人たちのことなのか。「ええっ! こんなにブサイクなのに!」
「リン君、殴り合いの喧嘩したことあるか?」鎌口の目が鈍く光っている。えっ? もしかして今の聴こえた? リン君は「いいえ。平和主義ですから」と答えた。
「この世界に入る前にな、俺、ボコボコにされたことがあってな、その事と、増藻さんのところに飛び込んだのが、何か因果があるのかなぁ」鎌口は目を細めて言う。「なあ、リン君よ。そのとき俺をボコった奴と、俺、どっちが臆病だと思う?」
「彼らですかね」と、気をつかった。
「違う。どっちも臆病なんだ。俺は弱いのが怖くてヤクザさ。奴らはヤクザが強そうに見えて、怖くてやった。どちらとも臆病なんだ。それが、その臆病が、俺の増藻さんへの忠誠なんだなこれが。そして金持ちさ」鎌口はクスクス笑う。
「おい、この世に蝶が生まれたとき、それはアゲハか?」
「それは分らないですけど、生まれたては、やっぱ地味じゃないですか?」
「じゃあ、アゲハは劣性遺伝か?」
「優性、劣性が美しさを決めるのじゃないと思いますよ」
「劣性遺伝って言うんだ。親類がな。俺の事そう言うんだ。劣性遺伝って何よ?」
「めったに表に出ない貴重なもの……ですか」
「じゃあ、表に出なかったものはどうなるのよ。俺の家族みんな、鼻、丸いのよ。俺の鼻、細いだろ? 俺のそれ見て、劣性遺伝って言うのよ」
「適当な事、思いつきで言いますけど、夫婦の間で、お互いの惚れられた部分の遺伝子が強く出るんじゃないですかね」
「惚れたお前の負けだよ〜♪」
鎌口さんが上機嫌だ。何故だろう。
「惚れた所が後世に残るか……」
「惚れられなかった所は、形を変えて、世界のどこかに表われるんじゃないですか。あの、日本人にはなくて、欧米人にはある。みたいな」
「じゃあ、俺の細い鼻は、誰かさんの丸くて可愛い鼻のためにあるんだな」
話の後で、リン君は「射精の時、醜い欲が膨らんで、間違いを後世に遺してしまったらどうしよう?」と考えた。「なんだか、ひどいことになるんじゃな
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