新しい場所
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何故、吉之を選んだかって? 突き破る誠実だよ。カントクは最後につぶやくように言って、「神様の光があたったら、今まで見えなかった、腐っている場所が見えてしまうから、注意しなよ」と付け加えた。
誠実。それはきっとサツキさんへの、あの恋心のことを主に言っているのだろうな。それ、もう無いよ、カントク。
「小さい頃に、小便たれて、大きくなったら生意気に、世の中に文句たれて、今になったらおっぱいたれて、たれてないときはないのかい?」
「下がるズボンを上げながら、溶けるアイスを舐めながら、日本の端っこに住みながら、日本の首相を笑ってる」
「ディス・ショップ・イズ・マスターヨーダ! ディス・ショップ・イズ・ルーク・スカイウォーカー! OK? イェス・OK! 味噌ラーメン! ヘイ!」
僕は、そんな心持でカントク最後の撮影に向かった。女の子を体験してから、意識のちょっと外に『ビリビリ』するような興奮があることに気が付いた。目に入った人がきっかけで、それが雷を落とすんだ。疲れる。
「大きな組織にはかなわないよ」その言葉がちょっとした反骨を生み、シンジ君に銃を取らせる。目の前でリンチにあった友人の懐に手を差し入れて。シンジ君は闇を許す、街の有力者の所に向かう。
「この銃弾をぶち込めば、俺の空はさらに厚い雲で覆われる。怖さってなんだ? 怖さって空が晴れない予感のことだ」
シンジ君は黒塗りの車の横を通り過ぎる。
夜の公園。雑木林で、その引き金は引かれる。銃弾が切れるまで引き金を引かれた拳銃は雪の中にすっぽりと消える。
「みんな、自分がかわいいから、いつまで経っても、この世界に雲がこんなに厚く?」
クランクアップ。
カントク、最後まで手を抜かなかった。みんな拍手をしている。
「送迎会? 別に東京に行っちまう訳じゃないし……いずれ行くけどさ、そん時にさ」シンジ君が笑いながら、「出世ですよ!」とはやしている。
カントクは僕らのこと少し遠ざけたいのかな。昔、友人が東京の大学に決まった後の、あの背中を向ける瞬間の冷たさを思い出していた。いや、新しい世界に旅立つ時は、何かを置いていかなければいけないんだ。それに対する言葉なんて、言わないほうが賢いもんだ。
吉之の頭の中に濃い無言があった。言葉にするべきではないものが、生きた白いシミみたいに。それは動いて、吉之から何かを引き出そうとする。これから、我の強い人間と面と向かって生きていかなければならないのだ、という現実が不安を広げるのを無意識の内に抑えたいからの無言。
「これからのこと、後でメールするから」と、竹蔵くんに言って落ち着いた。
吉之はコーヒー屋で『今月のコーヒー』を飲みながら、『ビリビリ』を感じている。地下街の往来を見ることのできる席で、『ビリビリ』が女の子に反応して口説くのを聞いていた。
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