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『ステーキ』
サツキの話
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と、サツキは笑った。
「僕の宗教、話してもいいですかね?」男は意気をあげて目を光らせた。「いいよ」
「愛のつながりを変えて、世の中を変える。遠い所に住む恩師がいて。その人、黒い糸がよく見えるんだ。黒い糸は白い人間から栄養を吸い取るように絡みつく。それを断ち切るのは白い糸のつながりを強くする事だから、白い存在を白い糸でつないで、黒い存在を入り込まないようにする。ガン治療、知ってます? ガンに栄養を送らなくする。それと一緒ですよ。でもさ、自分自身が白だって思う人も、黒いものに触れて、実感しなくちゃ分らないでしょ? だからあえて、恩師は黒をこの世から消さないようにしているんだ。じゃあ、黒い人はどうすればいいのか。常に白い存在を突っつく。突っついて愛を世の中に放つんだ。黒い存在に触れると、急に自分が白であったことに気がつく。それが、白の存在感とつながりを強くする。つまり、白の愛が世の中に広く知られるようになる。どう?」
 サツキの身体から、目に見えない存在が抜け出て、男に向かって何度も飛んでゆく。男からは光の風が吹いている。意識は濃く、どこかを目指している。男が「兄さんに電話してきます」と、席を立った。
「複数人プレイ!」サツキの意識が脳みその新しい部分にはみ出した。
 男は店の外で増藻に電話した。
「大学までスポーツやってたみたいで、効きがいいです」
「手、握ったか?」
「はい」
「胸、触ったか?」
「……いいえ」
「揉んだのか?」
「いいえ」
「キスしたか?」
「はい」
「高まっているのか?」
「そう思います」

 サツキはトイレに立って、おじさんに電話をした。
「その気持ちは多分、雷が近くで鳴ったらすぐにどこかに逃げ込むのだけれど、遠くで鳴っていたら、心惹かれる。みたいなことだと思います」
「雷が近くに落ちたときの、心の精錬を知っていますか? あのピリリとした、自分以外の何者でもないと感じられる時を」
「秘密にしておきたい気持ちを、うまく隠せて笑えたときは、この世に生まれる喜びを感じるのです。核に触れていない様でありながら、確かに近づく手ごたえがあるのです。秘密にしておきたいその気持ちが真実なら、それを出すのもかまわないでしょう。しかしながら雷に撃たれることは、あまりに直線的に真実をつかむことにはなりませんか?」
「そなたの身体で悦ぶものあらば、差し上げるが良い。例えその悦び醜かろうとも、悦びは天に届き、そなたを良き道に導くであろう。悦び沸かす力あらば、それを冷ます力もある。世界凪ぐまで、風に任せよ。雷は人を選んで落とされるものですから」

 大陸の国が、腹立ち紛れに投げつけた爆弾低気圧が、空を乱している。増藻の事務所に内装工事が入っていた。
「熱水流して」と、中年の男が言った。この事務所の暖房のヒーターから熱
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