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『ステーキ』
サツキの話
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堅気。
 パーティーが好きなよう。
 素面のときは少々警戒心強し。
 胸、Fカップ。美乳。

「遠くを見渡せる意識が存在しなければ、セックスシンボルは存在しないのだ」
増藻は鐘楼に登り、それを見ていた。
「すべてのセックスシンボル。それを深く解する視線がこの世の中の人々に方向性を与える。人々に意識の跳躍を与えんがためである」

 店の照明はテーブルの少し上にあり、互いの顔をよく見るには、頭を前に突き出さなくてはならなかった。サツキも男も、話の大事な部分で、顔を灯りの下に突き出した。それはサツキと男の顔の陰を深くしたけれど、少しグロテスクな方が深いところまで話せそうだと二人は言った。男の若い額と、濃い生え際が、艶やかに照らされる度、サツキの意識に何かが咲いた。
「僕は、ぼんやりと思うんですよね。ああやって、コーヒーや酒やチーズの匂いを嗅いでいる人は、脳内で匂いを愛に変換して、理論的に理解しているんじゃないかって」
「愛に変換?」
「ああ、言い方を換えると、闘いですよ。愛って闘いの要素、あるじゃないですか。俺の闘った味どうぞ、みたいな。この風味と闘った気迫をどうぞ、みたいな」
「私は闘いたくないな」
「闘っているうちに、自分にのめりこむんですよ」
「ナルシズム?」
「あっ、それ、大きな声で言わないで。知り合いなんですよ。でも、それを受け入れようとしているうちに、自分が理知的な人間になれることもあるでしょ? その、複雑さを理解しようとして人間は大きな器になるんじゃないかって思いますけど」
「愛を理論的に理解する。理論を知って、愛にたどり着く」
「テクですよ。テクニックは隙を見せない壁を造るようなもので、自分の不備を補うようにあってさ、人間の心の隙を上手く、埋めてくれるでしょ?」
「あんま思わない」
「どうして? 愛が逃げないようにするのがテクですよ?」
 サツキは、この前自分が抱かれたとき、何と言ったかを思い出していた。確か「逃げないうちに、2回して」だったかな。愛って、人間の力技よね。おっぱい揉ませるだけで、矢印の方向が変わるんだからさ。
「その匂いが完璧なら、愛を感じるでしょ? テクなんていらないじゃない?」
「どうだろ。完璧な匂いなんて嗅いだことないな」男は難しい顔をして計算をしていた。お酒を飲んで何分経つだろう。
「ここのチーズ料理、美味い?」
「うん」
「少し難解ですよね」
「難解と思えることがすごい」
「どうして?」
「細かい所を見落とさない、用心深さがある」
「ありがと」
 男はサツキのおっぱいを左手中指でつついた。右手がふさがっていたからだ。
「サツキさん、宗教のこと詳しいんですか? はじめ会ったとき、おじさんのこと話していたけど。あの『金言を吐けば』の人」
「あんまり言いたくない」
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