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『ステーキ』
サツキの話
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。「よし!」大丈夫みたいだった。
 近くにいたおばさんが、急に怒り始めた。
「ちょっと、これ、本当に注文してから淹れてるの?」
「インスタントじゃないの?」
「ひどい味じゃない! あなた飲んでみてよ」
 サツキは「この人、負けたな」と思う。隣に座った男が、自分のタバコの煙がこちらにかからないか、気をつかっている。「勝った」 
 サツキはぼんやりティーカップを見ていた。色気がありそうで平凡にも見える。いや、口当たりをもう少し薄くしたら、上品な、卒のない魅力を備えられる。ん? それは逆か。口当たりが上品なだけに、その外の詰めの甘いところがチャーミングになるのか。でも一点の輝きに惹かれて、外のところに寛容なのはちょっと、オジサン臭いかな。それは諦めだな。そうやって許された女は、たいてい後で図々しくなるんだから。
 カフェの壁の隙間から行き交う人々が見える。視線の先にある、動いている人々の意識。それを細やかに観察したら映画。これだけの人の中で、心の機微は失われる? それとも踊り出す? それを外から見るカントク。実際に泳ぐ人々。東京青山表参道。周りに追いつこうと必死だった大学時代。あの街、演出家よね。昔の友達の幾人か。その意識の奥で眠ったままの遊びたい気持ち。その上空はるかに流れる強い風。怖いの? 心は強くないの? 何か悪いものが出ちゃうのかしら。私は、断然、泳ぐ方が楽しいか。
 店内の鏡に映る自分の顔がキレを失っている。少しだけ顔が厚い。少し田舎を吸い込んだか。
「あの男を切ろう。バッサリと切ろう」

 色気。それを乗せて言葉にしたら、あの甘い歯ごたえ。それを胸の奥から生み出すときのうれしさ。
「フンッ!」と強い息を吐いて化粧室の鍵を開けて出てゆこうとした時、カントクから「胸を強調しないで」と、注文されていたのを思い出した。バッグの中に、胸の小さく見えるブラジャーがあったんだ。サツキは鏡に映る生のおっぱいをなるべく見ないように、それに付け替えた。少々性的に酔っていたかな。
 カメラの前に座って、スタッフの準備を待っていた。顔に陰が出来ないように、ライトを加減する竹蔵くん。前髪が少し厚すぎない? 暗く見えるわよ。地方局のニューススタジオみたいな、少し安いセットを作ったんだ。後ろにブックシェルフを置いて、置物や、誰かが作ったテレビ局のキャラクターのぬいぐるみが置いてある。エゾシカのぬいぐるみ。目が小さくて飛び出ているから笑える。
 スタッフの視線のもたらす風は、サツキの手前、わずかな所で勢いを緩め、その身体を柔らかく包んだ。
「結界を張れか」

「札幌市南区の部屋から、コカインと見られる麻薬1`、端価格にして7千万円相当が見つかった事件の続報です。TVSの調べによりますと、部屋の所有者は、『私を経由しただけで、誰が実際、取引をしたのかは
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