暁 〜小説投稿サイト〜
『ステーキ』
伝説のイトウ
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たらす雨にも。それらすべてをコントロールする術をよく分っていた。彼らはただ、その雨を一つも言葉にしないのだ。それどころか、その雨は、彼らの表情をナイーブで、チャーミングなものにしていた。それに私は憧れたんだ。
「昔の遊び人は良かった」と、頭上の人は言った。「それなりの器と根性があった」
 その一年間、私は一度もセックスをしなかった。好きなラーメンも食べなかった。たくましかった心は萎えて、すべてを恐れ、中学生のヤンキーにも頭を下げた。
「あなたたちは、すべて見ていたんだ」と、頭上の人に問うたが、答えはなかった。
 この世のどこかに、人間の本質を見極める人あるらしい。その人、あらゆる臓物をじゅうりんされる様な拷問にあい、その困難を乗り越え、然るべくして、人間を判断することを許されたとか。
「どんな男なのか?」と、問うた事がある。
「一〇二六段の階段を昇った男だ」と聞かされた。
「今、私は何段目か?」と、問えば、頭上の人は「鼻で笑っている」
その人、男の包皮の価値まで分るという。頭上の人は、その人を使って、人間を見極めた後、彼らのなりゆきを、私たちのような人間にゆだねるらしい。その人を経て私の所に、吉之という男が来た。

そんなある夜、イトウの意識にあまたの魂よって来て、声にならない意思をぶつけてきます。幾重にも意識が重なり、それぞれに動くので、イトウは混沌の中にいました。混沌の隙間から心の奥に届くものが言葉を得ました。すべてが耳障りでした。

 この地球に降るちりみたいに
 一瞬 奥のほうで燃える気持ち
 誰か見てるかな
 消えてしまえば
 ため息に変わるような
 はかない光

 俺たちは愛じゃないものを
 あぶりだしているのさ

 あのお母さんはね
 自分の愛じゃ息子が勝てないと思って
 逝ってしまったのよ
 「私はあの子を少しずれて愛してしまった」
 と言ってね

 男の体は不思議だな
 性感帯が強くなければならない

 天に張り巡らされた感性の網よ
 人々の瑣末な心まで
 その細やかさで汲み取り
 ある一つの事実として
 結晶させたまえ

 後世に命ちゅう可能性をつなげたい
 だけれどもその欲は
 堕ちてゆく危険をはらんでいる
 この綱渡りたまらんべや

 こんな女とやったら体から毒出るぜ
 神様も鼻をつまむぞ
 毒ってのは自分自身だけで
 作るものじゃないぜ
 世の中に忌むべき存在が
 あってこその毒だぜ

 暗い部屋でオーブンレンジがオレンジ色に輝く。美しい。トーストにあわせてコーヒーを淹れる。このコーヒー豆は、種子という運命から逸脱して、人を喜ばせるものにシフトした。それもまた幸せなのかな。イトウはオカマちゃんを想った。

 魂が小さくなる。下腹部が
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