伝説のイトウ
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でもなく、自然にそれに手が伸びる。目に飛び込むエロティックな乳房や腰にペニスが反応して大きくなってゆく。性的な悦びが意識を満たす。ある時点からそれは消える。言葉もなく真夏の太陽を、汗をかかせるだけの物としてみるように、すべての感情、失せる。シンクロしている彼は勃起しているようだ。勃起を司るのは私の意識か、それともこの裸の女か、それともこの女を抱いた男達か、私を産んだ母か。世界はつながっている。人間になど、とうてい理解できない複雑さで。ただ分ることは、彼にすべてを捧げているということだけだ。
「彼はオナニーをしているのか?」と、問うと、「少々困惑している」と、答えがあった。「彼は生まれつき勃起障害を抱えていると思っていたものだから」
感性のある童貞に降る雨を一時的にさえぎるのが私に与えられた仕事だった。しばらくの間、私の脳みそは死んでいた。頭上の人は吉之の心の動きをつぶさに観察して、次の手を考えているのだろう。それについてイトウは何の考えも持たなかった。「感性のある人間が世界に触れると時間が進む」という感想を持っただけだ。この仕事を始めてからずいぶん年月が経った。それは実際の長さよりも長いものだった。苦痛を伴う日々だったからという事。世の中の真実の端っこを垣間見たからという事。
イトウは古い友人に電話をした。
「なあ、今日もナンパしてたのか?」
「ああ、してたさ。ノー・ナンパ ノー・ライフさ」
「のべつ幕なしだな」
「顔が可愛くて、胸があって、腰がくびれてて、エロい指があったらそれでいいのさ。何もかも愛撫さ。この世の中のすべてが愛撫さ。感じやすい心を上手く乗りこなすのが男の器量よ。小鳥のさえずりでもピンコ勃ちよ」
この世のすべてが愛撫。なるほど、知性のある人間は、世の中の事象を細かに観察しては、真実の愛に注釈をつける。それは近づいているように見えて、遠ざかっているようにも見える。
「好きになっちまったら、ふられるのも乙なもんさ。はじめて会って、『すいません、ちょっと』から、『わかったよ、ありがとう』まで楽しいんだな」
「上流の澄んだ水を飲み、その流れに体を洗った。ささやかな水の量であったが、私を含め数人しかいなかったから十分であった」
「イトウちゃんたまに上の空になるよな」
「ヘミングウェイの小説に、こんなシーンはなかったか? ヨーロッパの森に入り、川で魚を釣り、山に登って上流まで歩き、汗を清らかな水で流す、みたいな」
ヘミングウェイの小説をいくらか読んだ覚えがある。知る限りにおいてだが、この人の小説はおしなべて実話の臭いがする。リアルな実体験は、それに伴う想像世界に血を送らんと手を伸ばす。心の奥で誰かの手を握る。それは肉体的にそうするより奥深い心を創り出す。
私とシンクロした吉之という男の勃起は果たしてどんな実体を持つのだ
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