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『ステーキ』
自主映画
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で、世界のどこかに何かが集まって噴火しちまうんだ。いや、エンターテイメントが噴火なのか? いや、創作家に性感帯が集中? それとも、エンターテイメント自体が日常の麻痺を生んでいる? なんだか混乱しているうちに、激しい勃起がやってきた。今日もやってきたんだ。僕はこの現象を少し受け入れようとしている。ゆっくりと手淫することにしたんだ。最中にカントクから電話があった。石花君の「忘れねぇがら」のこともこのとき聞いた。
「セックスしたいな」僕が言うと。
「ホント? すごいね!」とカントクは喜んだ。「ホント、セックスしたくなったの?」
 軽はずみだった。この話に続きがないと思っていたから。
 吉之は勃起の話をした。とても硬い話だ。このチャンスを逃すともうダメかもしれない。そういう嘘も口から出た。
「男には夢がある。女の本当の愛にだけ勃起することだ。そうだろ? 吉之」カントクが興奮している。「女の本当の愛を賛美するんだ。そしたら女は体の隅々まで愛で満たされるんだ」
 電話を切った後で吉之はグルグル回っていた。
シンジ君の関わる下部組織に、上部団体が圧力をかける。それをはねのけようと、シンジ君にタレコミの役を押し付ける。シンジ君が組織を抜けることを知って、「多分、コイツは殺されるだろう」と。平気でトカゲの尻尾切りをするのだ。しかし警察を抱き込んでいる有力者が、それにまた圧をかけてもみ消す。シンジ君のかつての仲間が逃げ惑う。有力者にとっては上部団体からの利益供与が重要だったからだ。シンジ君の周りに少しずつ黒い影が見えてくる。次第に少なくなる友人たち。カントクは言う。「シンジ君がどこまで耐えられるかが、この映画のミソなんだ。人間の器、手の届く範囲、それが露になるんだ。結局自分の愛をどれだけ信じているのか。それを見せたいのさ」
 吉之の頭にはどのシーンで、どんな演出をするのか、想念が溢れかえっている。体がひどく冷たくなってゆくのを感じる。冬の冷たさなら反発も利くだろう。しかしこの空気はひどく寒いじゃないか。

「最近いい男いた?」とカントクは探りを入れた。
「飯は食えてんの?」パパの話で崩しにかかった。
「ねえ、その手のウェルカムやめたのよ」と女の子は言った。「ここの所、幸せが逃げてゆく感覚あるんだよね。もしかしたら誰かの怨念だから」
「Mちゃんみたいに抜けのいい子がそんなものに捕まる訳ないじゃない」
「疲れ抜けてかないのよ。疲れたらなんだか色気溜まらなくて」
「こないだなんて何も変わりなかったじゃない?」
「幸運は色気だし、色気は幸運だよ」
「つまりそれは性欲ってこと?」
「ううん、色気は幸せだよ」
「つまり男が勃つってことだよね?」
「違う。色気があることが幸せなの。体の隅々まで守られているって感じるからさ。色気って光だと思わない? 色気
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